不妊治療助成 治療件数など情報開示義務化へ 医療施設選びの参考に 施設淘汰の懸念も 

2021年3月1日 06時00分
 政府は不妊治療の公費助成の条件として、治療件数や費用など一定の情報開示を医療機関に義務付け、4月以降に公表することを決めた。利用者の「施設を選ぶ際の参考にしたい」との要望に応えた。自由診療ゆえに見えづらかった治療実績の透明化につながる。患者には、1月に始まった助成拡充に続く朗報だ。しかし、関心が高い成功率の公表は任意にとどまるなど課題も残る。(川田篤志)

◆「情報開示を助成条件…かなり踏み込んだ措置」

 厚生労働省によると、情報開示の義務化に伴い、医療機関は必要事項を報告し、公費助成の対象になるための指定を受けなければならない。義務化の項目は年間の治療件数、費用、医師や受精卵を育てる胚培養士はいばいようしら専門スタッフの配置人数など。妊娠数や出産率なども挙げたが、公表するかどうかは施設側の判断に委ねる。報告期限は3月末で、助成制度の窓口を担う各都道府県などのホームページで順次、閲覧できるようになる。
 「情報開示を助成条件にするのはかなり踏み込んだ措置。大きな一歩だ」。不妊患者を支援するNPO法人「Fine」の松本亜樹子理事長は歓迎する。
 中でも注目しているのは、体外受精に大きな役割を果たす胚培養士や、患者の心理面をサポートするカウンセラーの配置人数の公表を義務付けたことだ。施設選びでは、医師に限らず専門スタッフの体制も重要なためで「治療の技術や患者のケアを含めた施設全体の評価ができる」と話す。
 費用の比較が可能になるのも利点だ。不妊治療を手掛ける施設は全国に約600カ所ある。カップルの年齢や体調などを踏まえた「オーダーメード」方式の自由診療が中心で、経済的な負担がどれだけ膨らむのか分かりづらい。厚労省の昨秋の調査によると、実施件数が多い治療法「胚移植」の場合、1回当たり16万~98万円と最大6倍超の開きがあった。

◆実績が一目瞭然「数字が独り歩きする」

 開示義務を導入するのは、昨年12月に成立した生殖補助医療に関する民法の特例法の付帯決議で「安心かつ安全な治療が受けられるよう、情報公開の在り方についての検討」をするよう求められたことも理由だ。ただ、治療で妊娠・出産に至った人数や割合という「一番知りたい情報」(松本理事長)の公表は任意とされ、患者の利便性を高める観点からは課題が残る制度設計になった。
 実績が一目瞭然になることへの施設側の抵抗感があったとみられる。厚労省は「数字が独り歩きする」(担当者)ことを懸念したと説明する。
 国公立病院や一部の民間医療機関は、基礎疾患があり、子どもを産みにくい患者を受け入れる「最後のとりで」になっている。その分、成功率は低くなりかねない。こうした前提を理解せず、数値の高さだけを基準に施設を選ぶ患者が増えれば、実施件数が減り、治療の質の低下を招く恐れも否定できない。
 民間クリニックで院長を務める順天堂大客員准教授の菊地いわほ医師は「それなりの治療件数をこなさないと技術は安定しない」と強調。情報開示で評価される対象が実施件数などに偏れば、都市部に比べ患者が少ない地方の施設が淘汰(とうた)される可能性も指摘し「地方の医療をどう守るか、国に考えてほしい」と注文した。

 不妊治療の公費助成 体外受精や顕微授精など高度な不妊治療に対する国の助成は2004年に始まった。今年1月から助成が拡充され、これまで初回のみ30万円、2回目以降は15万円だったのが、2回目以降も30万円に倍増。夫婦で730万円未満という所得制限も撤廃された。助成回数も患者1人につき6回までだったのが、子ども1人当たり6回に見直された。

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