「はみだしルンルン」発売♪ 鹿子裕文さん寄稿 世界のネジが一瞬だけゆるむ本

2021年3月1日 07時27分
 2016年4月〜20年4月に本紙で連載した著述家鹿子裕文(かのこひろふみ)さん(55)の3部作「人生へろへろ」「はみだしルンルン」「どうにもニャン太郎」が、単行本『はみだしルンルン』(1430円)として発売されました。高校生画家モンドくん(17)の絵も満載です。新刊への思いを鹿子さんに寄稿してもらいました。
 いつからそうなっているのか、もうわからないのだけれど、よほど調子のいい人間以外は、つらいことの方が多い社会になってしまった。弱い立場にあればあるほど、冷たい水を浴びせられ、厳しい言葉をかけられる。そんな状況は、日を追うごとに「よりきついもの」になっているような気がする。
 その冷たい水を浴びせ、厳しい言葉をかけている人たちもまた、大して強い立場にある人ではない。むしろ僕らの隣人的な存在である。その隣人的な存在の人たちも、きっと余裕がないのだろう。どこかテンションがおかしい。
 弱いものいじめを、弱いものが始めてしまうとき、人はより残酷になる。弱いものをいじめていると、自分が強いものになったような気がしてくるからだろう。そうした行為があちこちで起きれば、ただでさえきつい「社会のネジ」は、加速度的に締まっていく。冷笑に次ぐ冷笑。息苦しさだけが右肩上がりの世界になっていく。
 そんな世界に「まあ、まあ、まあ」と割って入ってお茶を出す。まんじゅうを出す。「これ、いただきものなんですけどね」とかなんとか言いながら、そのまんじゅうを真っ先にほおばり、「これちょっと甘すぎだね!」とか言ってお茶をがぶ飲みし、矛先を変える。「この人、ちょっとバカなんじゃない?」と思ってもらえたら、それはもう御の字というもので、そのことで少しでも場がなごめば、それでいいのである。みんなが「どれどれ」とまんじゅうに手を伸ばし、「ほんとだ。ちょっと甘すぎる!」となれば、場の空気は確実に変わるのだ。
 それは小さなことかもしれないし、社会の根本を変えることではない。けれど、どこかでそんなことが起きれば、僕らの世界はその瞬間、ほんのちょっとだけ、ネジがゆるむはずなのだ。
 東京新聞の連載をまとめた僕の本、『はみだしルンルン』は、そんな本かもしれない。「まあ、まあ、まあ」と割って入ってお茶を出す。まんじゅうを出す。世界のネジが一瞬だけゆるむ、そんな本。
 載っているのは「ちょっと笑えたり泣けたりする」なんでもない日常の話。おっぱいが死んだと突然言い出す老婆の話だったり、ハゲた飼い主の頭を唾液で治そうとする猫の話だったり、そういう話がたくさんたくさん。肩の力が抜けていく、そんな一冊だと思います。
 B6変型判、204ページ。書店のほか、新聞販売店でも取り次ぎます。問い合わせは、東京新聞出版・エンタテインメント事業部=(電)03・6910・2527(土日祝日除く)=へ。

「ここおかしいですね」と鹿子裕文さんの頭をなめる猫のミー

バキューン

心ある人に拾われた野良犬マロン

純音楽家の「エンケン」こと遠藤賢司さん。「努力を続けることこそが才能だと思っている」と生前よく語っていた=イラストはいずれも『はみだしルンルン』に収録されたモンドくんの作品

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