<社説>海自潜水艦事故 教育訓練も調査対象に

2021年3月1日 07時42分
 海上自衛隊の潜水艦が先月、貨物船に衝突した。一つ間違えば、大惨事になるところだった。潜水艦側の人為ミスの可能性が指摘されている。隊員の教育訓練にまでさかのぼった原因究明が必要だ。
 高知県足摺岬沖で、訓練中の海自潜水艦「そうりゅう」が香港船籍の貨物船とぶつかった。潜水艦のかじが折れるほどの衝突だった。海上保安庁と運輸安全委員会、海自の事故調査委員会が調べているが、現場はカツオ漁船なども航行する海域だ。大事故を免れたのは偶然で、責任は水中を航行していた潜水艦側にある。
 事故当時、潜水艦は浮上中だった。浮上は最も神経を使う瞬間とされ、潜望鏡を出す前に水中音波探知機(ソナー)で周辺に船舶がいないかを確認する。後方に死角ができるため、針路を変えて何回も確認する。海自はソナーに不具合はなかったとしており、確認作業にミスがあった可能性がある。
 衝突でアンテナなどが損傷し、所属先の第一潜水隊群(広島県呉市)に連絡が入ったのは発生から三時間二十分後だった。陸に近づいてから携帯電話で連絡したが、まさに「許されない」(山村浩海上幕僚長)問題だ。重篤な負傷者がいれば、致命的な遅れだ。
 今回と類似した事故は二〇〇六年にも起きている。宮崎県沖で海自の練習潜水艦が浮上中、タンカーと衝突。海難審判では潜水艦はタンカーを探知していたが、動静監視が不十分だったと裁決した。
 この事故でも無線の不調で連絡が一時間余遅れた。事故後、海自は浮上時の動作について、一段と慎重な確認作業などをルール化したとしているが、こうした改善措置の効果も検証してほしい。
 事故の原因が人為ミスだった場合、潜水艦隊に構造的な欠陥が潜んでいる可能性もある。中国の海洋進出を受け、二〇一〇年に閣議決定された旧防衛大綱は機動性を重視し、潜水艦を十六隻から二十二隻体制に増強することを打ち出した。専門家の間ではこの増強に伴い、要員が駆け足で養成されたという指摘がある。
 潜水艦乗組員には「ノウ・ユア・ボート(船体や操法の熟知)」という標語がある。不可欠な知識が身についていたのか。質問しやすい環境なのか。そうした教育訓練面も調査対象にするべきだ。
 潜水艦は「海の忍者」であり、秘匿性の高い分野だ。だが、あってはならない事故が起きた。政府は情報をできる限り公開し、原因究明に取り組むべきである。

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