「核のごみ」の行方

2021年3月1日 07時42分
 福島第一原発事故からもうすぐ十年。原子力発電というシステムの持続可能性が問われるきっかけになった。いわゆる「核のごみ」、放射性廃棄物の最終処分場は今も決まっていない。どうすればいいのか。

<高レベル放射性廃棄物最終処分場> 原発の使用済み燃料を安全に廃棄処分する場所。廃棄物が安全な物質になるには万年単位の時間が必要とされ、日本では地下深くの安定した岩盤に閉じ込める「地層処分」で対応することになっている。最終処分場は今も決まっておらず、「トイレのないマンション」にたとえられる。昨年10月、候補地選定作業の第一歩となる文献調査に北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村が名乗りを上げた。

◆地域の合意形成重要 原子力発電環境整備機構専務理事・田川和幸さん

 高レベル放射性廃棄物には、寿命の長い放射性物質が含まれており、数万年にわたって人間の生活環境に影響を及ぼさないようにする必要があります。人間による管理がなくなったとしても安全な方法として世界的に選択されているのが、地下に埋める地層処分です。
 地表と比べて地下は、自然災害や戦争、テロなどの影響を受けにくい場所です。日本は地震国だから地層処分は難しいという指摘があります。しかし、地震による揺れは、地下深部では地表の数分の一程度となることが分かっています。
 地層処分では、まず使用済み燃料を再処理する過程で残る廃液をガラスで固めます。ガラスは物質を取り込み、かつ水に溶けにくい性質があります。それを厚さ約二十センチの鉄の容器で覆い、埋める時には周りを粘土で囲みます。これを三百メートルより深い安定した岩盤の地層に埋設します。
 地下深部は酸素が少ないので、化学反応が起きにくく、安定した環境です。地下水の動きは極めて遅く、放射性廃棄物を長期にわたって閉じ込めることができます。
 活断層や火山の影響、地盤の隆起などがなく、処分場に適した場所を探すため、文献調査、概要調査、精密調査という三段階の調査があります。文献調査では、地質図や学術論文を調べます。概要調査では穴を掘って地質の状況を調べます。文献調査が終わっても地元の知事、市町村長が反対すれば、その先へは進みません。
 北海道の二町村で文献調査が始まりましたが、これからも全国での対話活動に取り組み、多くの自治体に手を挙げていただきたいと思っています。
 その際、重要なのは、地域で議論を深めていただき、主体的な合意形成が図られることです。われわれは、議論に必要な情報を継続的に提供していきます。押し付けるのではなく、地域の納得感が醸成されるように努めたいと考えています。
 フィンランドは世界で唯一、処分場の建設を始めた国です。住民対話の中で、処分場建設によって将来どのような街ができるかという点について共通認識ができたそうです。日本でも、単に処分場を造るということではなく、地域の抱える課題や将来像を考えるきっかけにしていただければと思います。
 (聞き手・越智俊至)

<たがわ・かずゆき> 1965年、長崎県生まれ。一橋大卒。88年、通産省(現経済産業省)入省。東北経産局長、経済産業政策局地域経済産業政策統括調整官などを経て2020年7月から現職。

◆理、法、情にかなうよう 京都教育大教授・土屋雄一郎さん

 原発の賛否を超えて、私たちは「核のごみ」の問題から逃げられません。どう最終処分場に向けた合意を形成していくか。産業廃棄物のケースでは、私が調査した範囲ではありますが、四つの方式がありました。そのうち主な二つを挙げます。
 一つは、長野県で導入された「検討委員会」方式です。反対派も含めたさまざまな立場の人が参加した「民主的」な会合を「公開」で行い、「科学的」な議論をします。合理的な手続きに基づいており、私は「正しい合意」と呼んでいます。ちなみにこの地での挑戦は、諸事情で合意に至りませんでした。
 もう一つは、岩手県のケースです。候補地の自治会は歴史が古く、まとまりが強かった。有能な自治会長は、こうした事態を「環境問題」ではなく地域の「生活問題」と捉えていました。県や市と上手に条件を詰め、短期間で合意に至ったのです。混乱は最小限にとどまり、私はこれを「善い合意」と呼んでいます。
 私は「正しい合意」を基本にした上で、「善い合意」のいい面を取り入れるべきだと考えています。ダム反対運動で知られた熊本県の山林地主の一人は公共事業について、理、法、情にかなうものでなければならないと言いました。ただ合理的で法的に正しければいいものではなく、生活に根差した情に配慮すべきだということです。
 ではどう情にかなうものにするか。それは言語化しにくい。というか言語化すると力を失う感じなのですが、あえて言えば候補予定地の「環境」だけを見るのではなく「生活」の場を見るということでしょうか。施設イコールNIMBY(ニンビー)(ナット・イン・マイ・バックヤード=大切な施設ということは分かるが、わが家の裏庭に来るのはごめん)なものにするのではなく、施設と地域の人たちがどういう関係をつくっていけるかが重要です。
 高レベル放射性廃棄物は地域にとどまらず国や国際社会も関わる問題ですので、さらに難しい。にもかかわらず、最終処分場について候補地選定の第一段階となる「文献調査」が北海道の二つの町と村で始まった。早急な動きに私は危ぶんでいます。議論するなら、事業の安全性だけではなく、超・長時間をかけ施設を「自然」に返すことを想定した上で、未来や夢を構想するものであってほしいと思います。 (聞き手・大森雅弥)

<つちや・ゆういちろう> 1968年、静岡県生まれ。専門は環境社会学。博士(社会学)。各地の廃棄物処理施設の紛争を調査して著書『環境紛争と合意の社会学』(世界思想社)にまとめた。

◆まず総量の確定必要 原子力資料情報室共同代表・伴英幸さん

 核のごみの最終処分場選定に向けた文献調査が始まった北海道の寿都町も神恵内村も、地形などを見ると、とても適地とは言えません。さらに、寿都町は住民合意が全くなされていない。国も原子力発電環境整備機構も分かっていたはずで、本来なら応募を突き返すべきだったと思います。神恵内村にしても村議会が請願を採択しただけで、国が申し入れたのはあまりに性急。公募と申し入れの二つの仕組みで一つずつ実績を作りたかっただけのように感じます。
 二十億円の交付金が支払われる実例を示すことで、実際に処分場が造れそうな他の自治体が手を挙げてくれるのを期待しているのではないでしょうか。
 処分場の是非は必ず地元でもめ、ずっと引きずる問題。自治体の首長が独断で応募できる今の仕組みは、見直した方が良いでしょう。まずは応募の前に地元住民の合意を前提とするほか、住民投票の仕組みも制度化して組み入れておくべきです。
 そもそも、ガラス固化体を地層処分するという現在の最終処分のあり方も疑問です。いまだに使用済み核燃料からプルトニウムなどを取り出し、残りをガラス固化体とする再処理を前提としていますが、プルトニウムを使ったMOX燃料を利用するはずだった「もんじゅ」の廃炉も決まり、核燃料サイクルは実質的に破綻しています。原発の使用済み核燃料やプルトニウムも資源ではなく、廃棄物として扱うことになっていくでしょう。さらに、東京電力福島第一原発はもちろん、各原発の廃炉で発生する廃棄物の問題もあり、これらも全て含めて処分の方策を考えなければなりません。
 原子力発電については、いつまでにやめるという終わりの時期を定め、放射性廃棄物の総量を確定すべきです。ごみの量が分かっていなければ、捨てる場所も決められないでしょう。どれだけの量かを確定した上で、処分する対象やそのための技術を改めて見直し、世代間の不公平の議論も含めた合意形成を図っていくことが必要です。
 福島第一原発事故から間もなく十年を迎えますが、核のごみを巡る状況はほとんど変わっていません。一方、ビジネスの面からは、原発がコスト的に合わないことは明らかになってきています。事故の衝撃は大きく、原発から撤退する方向に動きだしていると思います。 (聞き手・清水祐樹)

<ばん・ひでゆき> 1951年、三重県生まれ。90年に原子力資料情報室スタッフに。2013年から経済産業省総合資源エネルギー調査会の放射性廃棄物ワーキンググループの委員を務める。


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