森の中で火事が起きた。動物たちはみんな逃げだした。猛烈な火…

2021年3月1日 07時49分
 森の中で火事が起きた。動物たちはみんな逃げだした。猛烈な火の勢いに圧倒され、ただ見守るばかりだった。「ぼく、何かできるかも」。一羽のハチドリが飛び立った▼ハチドリは川の水を口に含むと火にまいた。何度も何度も往復するハチドリに他の者は言った。「君は小さくて、一滴ずつしか運べない。火は消えないよ」。ハチドリは答えた。「それでも、ぼくは自分にできることをするよ」。中南米などに伝わる民話と聞く▼一時は消火活動に当たる自衛隊のヘリコプターが、か弱いハチドリに思えるほどの火と煙の勢いだった。栃木県足利市の両崖山(りょうがいさん)周辺の山火事。発生から一週間が過ぎ、ようやく鎮火の兆しが見えてきた。ありがたい。一時、火の手は住宅地にまで迫っていた▼この時期、現地では赤城山からの乾燥した風が吹きつけるそうだ。乾燥と強風が火事をいっそうどう猛にし、長期戦になったようだ。消火を助ける雨にも恵まれなかった▼いったん火がつけば、知恵と技術を誇るはずの人間さえ、力なきハチドリに等しいのか。山火事の恐ろしさをあらためて知る▼出火原因はまだ分からないが、火の不始末を疑う声も出ているそうだ。「ぼく、何かできるかも」。山火事を消すハチドリは無理かもしれぬが、山で火事を決して出さぬ用心深いハチドリにはなれるだろう。それがわれわれにできる何かである。

関連キーワード

PR情報

筆洗の新着

記事一覧