<身元保証を考える おひとりさま社会のなかで> (上)代行契約のトラブル 監督官庁なし「法整備を」

2021年3月2日 07時12分

身元保証を巡るトラブルを減らすために各地でさまざまな取り組みが始まっている

 一人暮らしや身寄りのない高齢者が増えている。入院や施設入所時に身元保証人を求められることも少なくなく、事業者による保証代行サービスが広がってきた。だが、契約を巡るトラブルも相次ぐ。一月に名古屋地裁岡崎支部で判決が出た「えんご会訴訟」は、不当な勧誘や契約により、高齢者の財産が侵害されかねない危うさを浮き彫りにした。「おひとりさま」にどう寄り添うか。現状と課題、改善への道筋を探る。
 「あんな相談をしなきゃ良かった」。東海地方に住む七十代の男性は悔やむ。
 一月、認知症の姉の入院先の職員に「姉の身の回りの世話を代行してくれるサービスがあるのか」と尋ねたところ、ほどなく代行業者から「お姉さんとサービス契約を結んだ」と連絡があった。自宅に来た担当者に「私が病院に出入りするのに必要」と言われ、その場で「委任状」に署名、押印したという。
 しかし、後日送られてきた書類を読み、動揺した。サービス契約は姉の葬儀などの死後事務もその業者が担い、姉の財産を処分して、費用の支払いを求めることができるという内容。委任状は、男性が相続人としてそれを了承したことを示すものだった。
 業者は今、姉の自宅マンションの売却も進めている。「認知症の姉が家を売るかどうかの判断ができたとは思えない」と男性。「自分も病気がちで出掛けるのが大変だから、世話を代わってくれる人が欲しかっただけなのに…。詐欺に遭ったような気分」と憤る。
 高齢者の身元保証問題に詳しい弁護士の熊田均さん(66)によると、このように親族が近くにいても、病気などで日常の買い物や通院の付き添いなどができず、代行業者に頼る例は多い。中には、身内ができるはずの葬儀、納骨などの死後事務まで「本人の希望」として業者が丸抱えしてしまうケースもある。
 「現状は、契約の自由という名の下での無法状態」。熊田さんは身元保証代行に監督官庁がないことを問題視し、消費者保護の法整備の必要を訴える。「身元保証という名称は全権委任のイメージがあり、改めるべきだ」とも主張。「病院や施設側がその高齢者に必要な生活支援サービスを分類し、外部の事業者に頼らざるをえない部分があれば、必要な範囲に限定するなど慎重に選んで紹介する形が望ましい」と提言する。
 厚生労働省は二〇一六年以降、都道府県を通じて全国の医療機関や高齢者施設に「身元保証がないことを理由に入院・入所を拒否してはならない」と通達を出した。だが、今も代行業への新規参入は相次ぎ、不透明な実態は変わらない。国民生活センターには一八年度も、「高齢者がよく理解できないままサインしてしまった」「解約時の返金額がわずかだった」など、身元保証サービスに関する相談が百一件寄せられた。
 トラブルを減らすための取り組みは広がりつつある。愛知県半田市は一四年にいち早く、身元保証のガイドラインを策定。代行団体を利用する場合は▽料金が明確に定められているか▽役員名簿などの情報を公開しているか▽契約の解除方法、契約金の返還条件などが明示されているか−などの情報収集を呼び掛けている。
<えんご会訴訟> 高齢者の身元保証代行を請け負う愛知県安城市のNPO法人えんご会が、養護老人ホームの入所者と葬儀、納骨までを含めたサービス契約を90万円で締結。さらに預金約620万円など遺産の全額寄付を受ける契約も交わした。同会は入所者の死後、金融機関に預金の払い出しを求めたが拒否され、名古屋地裁岡崎支部に提訴。1月28日の一審判決は「高齢者の不安に乗じて結ばせた契約で、公序良俗に反し無効」として請求を棄却した。同会は控訴した。

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