<身元保証を考える おひとりさま社会のなかで> (中)入院・入所の「条件」 リスク管理、業者に依存

2021年3月3日 08時00分

癒着はなかったとする調査結果を述べる神谷学市長(中)=愛知県安城市役所で

 病院や高齢者施設はなぜ入院、入所時に身元保証人を求めるのか。高齢者らの財産管理などを公的に支援する後見人もいるが、身元保証サービスを頼る人が後を絶たない。地域によって利用に大きな差がある成年後見制度の課題も見えてきた。
 「入所者が入院、手術をする際など、実際はほとんどの場合、身元保証が必要だった」。愛知県安城市の神谷学市長(62)は二月二十五日の定例会見で、「えんご会訴訟」の判決で指摘された「市とえんご会の癒着」について釈明した。
 訴訟で問題となったのは、市社会福祉協議会が運営する養護老人ホームの入所者と、同会が結んだ契約だ。入所者の半数以上が同会の身元保証サービスを使っていたという。施設側が入所者に身元保証人を付けるよう求めていたのだ。
 だが、厚生労働省は「身元保証がないことを入所を拒む理由にしてはならない」と指導している。高齢者らの財産管理や契約などを支援する成年後見制度もあるが、市高齢福祉課の担当者は「後見人ができることには制約もある。老人ホームの中でそのまま活用できるかどうか」と気をもむ。
 みずほ情報総研(東京)が二〇一七年、全国二千三百八十七の介護施設に聞いた調査では、95・9%が入所者に「(身元保証人など)本人以外の署名を求めている」と回答。そのうちの30・7%は、署名がないと「受け入れない」と答えた。山梨大医学部教授の山縣然太朗さん(62)が同年に行った調査では、全国千二百九十一の医療機関の65%が入院時に身元保証人などを要求。うち8・2%は保証を得られないと「入院を認めない」と回答した。
 名古屋市内のリハビリ病院で十年以上、医療ソーシャルワーカーとして患者や家族の生活支援などに努めた同朋大講師の林祐介さん(43)は「リハビリ病院で状態が安定してきた患者さんでも、身元保証人が付いていないと転院や退院後の入所を受け入れてくれる病院、施設は極端に減る」と説明する。入院が長引くほど診療報酬が下がり、病院の経営を圧迫する要因にもなる。「医療ソーシャルワーカーが理念的に『身元保証は要らない』と言っても、病院経営の意向には従わざるを得ない」
 病院や高齢者施設で用いられる「身元保証」という言葉は一般的に▽緊急時の連絡先▽入院計画や入所中のケアに関すること▽入院・入所中に必要な物品の購入▽費用の支払い▽退院・退所時の支援▽死亡時の遺体引き取り−などを意味する。
 林さんによると、このうち買い物の支援は「現金の預かり業務」を伴い、職員の負担になりやすい。死亡時の対応も、近くに身内がいないと大変だ。入院などの費用の支払いも、代行業者がその人の資産を把握して請け負ってくれれば、未収になる心配はない。また、手術時などの「医療同意」の署名は本来、代行業者には認められていないが、実際には「家族が立ち会っていないから」と代役を求めるケースもある。
 こうした病院や施設側のリスク管理に対する意識が根強く、保証頼みから、なかなか脱却できない。そして、高齢者の懐に入る機会を得た代行業者の一部が、財産侵害のトラブルを起こしてしまう−。
 安城市の幹部の一人は自戒を込めて語る。「財産に絡む契約で、慎重にあるべきだ。えんご会も、過去に遺族とトラブルになったことがあるのなら、その時点でしっかりと対応すべきだった。そういう点では、市にも甘さがあったのかもしれない」

◆伸び悩む成年後見制度 地域で取り組み、増加のケースも

 成年後見制度は二〇〇〇年、介護保険制度と同時に始まった。市町村が介護サービスを決めていた時代から、利用者がサービスを選び、事業所と契約する形に変わり、認知症などで判断能力が低下した人を支える仕組みが必要になったからだ。
 利用は、本人や配偶者らが家庭裁判所に申し立て、後見人を選んでもらう。主に弁護士や司法書士など法律の専門家が選任され、本人に代わって金銭の管理やサービスの契約などを担当。報酬額は家裁が決め、本人の財産から支払われる。本人の判断能力がある程度残っている場合は、契約などに同意を与える保佐人や補助人が選任される。
 「後見人が付けば、身元保証は不要」とする病院や施設が多いのは、後見人が財産管理をすることで、医療費や利用料の不払いを防げるからだ。すぐに払えるお金がない場合は、後見人が分割払いなどの支払い計画を立てる。一六年の民法改正で、遺体の火葬の契約や電気、水道の解約などの手続きも後見人が関われるようになった。買い物、通院の付き添いなどの日常的な世話はしないが、民間のヘルパーを契約するなどして対処できる。
 厚生労働省によると、成年後見の利用者は一九年十二月末時点で約二十二万四千人。〇〇年度の約九千人からは大きく伸びた。しかし、認知症や知的、精神障害のある人は計一千万人以上とみられ、利用は一部にとどまっている。制度が十分に知られていないことに加え、専門家に頼むと十万円以上かかる申し立て費用などへの抵抗感も強い。申し立てから後見開始まで二~三カ月かかることから、病院や施設で緊急に対応するには使いにくく、身元保証代行サービスに頼る場合も多いようだ。
 愛知県日進市の尾張東部権利擁護支援センター長の住田敦子さんは「地域の取り組みの差が大きい」と利用促進への課題を指摘する。身寄りのない高齢者らで成年後見が必要になった場合、親族に代わって市町村長が申し立ての手続きをすることができるが、申し立てに不慣れな自治体は消極的だ。
 尾張東部の五市一町(瀬戸、尾張旭、豊明、日進、長久手、東郷)では、制度開始から十一年間で首長の申し立てはわずか四件だった。一一年に同センターを設置し、住民への啓発や職員研修などを進めた結果、一一~一七年の申し立ては計百三十三件に上った。住田さんは「認知症の方だと、担当の民生委員らが判断能力の低下に気付いた時点で相談してくれるようになった。判断能力が残っている早い段階から保佐、補助で緩やかに支えられるケースも増えてきた」と話す。
 ただ、判断能力が衰えていない人は、成年後見の対象外。近くに頼れる親族などがいないのに、病院や施設で身元保証を求められた場合、代行業者などに頼らざるを得ない。
 高齢者らの権利擁護に詳しい放送大教授の大曽根寛さん(70)は「利用者が事業者と直接契約してサービスを利用する今の仕組みでは、何か問題が起きても行政は責任を持たない。成年後見制度で補いきれない支援の隙間に、代行業者が入り込んでいる」と指摘する。死後の不安や金銭面の不安、身の回りの世話の不安…。「既存のさまざまな制度をフルに使えば状況が改善する余地はある。それでも足りない部分は、地域で実情に合った仕組みを作り出すといい」と提言する。

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