色の意味/見続ける/食べたい

2021年3月5日 08時04分

福岡範行(37歳)社会部

◆色の意味

 東京電力福島第一原発事故ですべての住民が避難した福島県双葉町。二〇二〇年一月、誰も住んでいない町中心部を初めて取材した。東京に帰る前、隣の浪江町に寄って驚いた。
 「色がある」
 新築の家の壁、貼り替えられたポスター、看板。鮮やかな色がまぶしかった。一方、双葉町は…。人の営みが途切れると、町は色を失うと知った。
 その年の三月、双葉町の立ち入り制限は緩和され、中心部は自由に歩けるようになった。新しい双葉駅舎、シャトルバス。町に色が戻りつつある。
 何度か通ううち、墓地にはいつも新しい花があることに気づいた。事故後、途絶えなかっただろう鎮魂の色。帰れない地元を思う人たちの気配を感じた。

◆見続ける

 いつか食べたい味がある。福島県いわき市・湯本温泉の旅館「新つた」のメヒカリの刺し身。脂でピンクに光り、優しい味がするという。新鮮な地物があるからこその名物だ。
 だが、原発事故で出せなくなった。最初は海の放射能汚染で。今は魚の基準値超えは極めてまれだが、出荷を抑えた試験操業の間に地元の流通業者が衰退した。風評被害が消えても、すぐには元通りにならない。問題の形は十年前と変わっていた。
 昨年三月に記事にした後、お礼で旅館を訪ねた。笑顔で迎えてくれたおかみの若松佐代子さん(63)は、最後に「湯本を見続けてね」と言った。真っすぐな目で、記者を見つめながら。

◆食べたい

 「震災だけでくくられたくない」「東京目線で考えないで」と被災地でよく言われる。最初はドキリとした。何ができるか悩んだ末、どんな取材でも「震災前の地元の魅力を教えてください」と聞くことにした。
 この質問には、みんな声が明るくなる。よく出るのは、双葉町なら町民体育祭。隣の大熊町なら甘いナシ。大熊で電器店を営む滝本英子さん(67)は「避難先でナシを食べたら、全然違うの。果汁も、甘みも、歯応えも。大熊のはどこよりもおいしかったあ」。弾んだ声の思い出話を聞きながら、事故で失われた日常の尊さを思った。
 食べたいものもまた増えた。大熊のナシ。どんな味だろう。
<ふくおか・のりゆき> 愛知県出身。2006年入社。社会部で原発や福島被災地、気候変動を担当。電話が苦手。コロナ禍で増えた出前の注文も妻に頼り切りで…。

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