NEWSその後 94歳男性から届いた駒込の「むかし話」 「こまごめ通信」が掲載
2021年3月8日 06時57分
豊島、北、文京3区にまたがる駒込地域を愛する「駒込人(こまごめびと)」が発行するフリーペーパー「こまごめ通信(通称・こま通)」。本紙が昨年5月に取り上げたところ、駒込で子ども時代を過ごした男性が、こま通に「むかし話」を寄せ、9月発行号に掲載された。男性は10月に亡くなるも、かつての少年が見た風景は地域に受け継がれた。
駒込で繰り広げられる、何でもなくてあったかい日常が満載のこま通。本紙で紹介した後、「記事を懐かしく読みました」と千葉県松戸市の福本喜一郎さん=享年(94)=から、こま通編集部に手紙が届いた。
こま通のバックナンバーを読んでもらうと、今度は一九四〇年代の駒込の風景がびっしり書かれた原稿用紙が五枚送られてきた。
むかし話には、駒込駅を起点に、ドブの向こう側にあるコロッケ専門店や、無声映画の映画館、木で造ったプール、小魚が泳ぐ水路などが思い出と共につづられていた。滝野川第七小学校(当時)の前にあった文具店の清水屋には、食パンに蜜をぬった「ミツパン」も売っていて「貧しい家庭の子は昼食になると、家へ帰って食べたものです」と続く。
「記憶の中を歩きながら、見えた物を描いているよう。とても貴重な文章だと思った。ミツパンは今の駒込にもありそうな素朴さ」とほほ笑むのは、駒込人で漫画家の織田博子さん(36)。むかし話を頼りに街を歩き、福本さんの記憶をつないで作った地図を、こま通に掲載した。オリジナルキャラクターの三毛猫「ゴメス」が当時を伝える漫画も添えた。
掲載号を福本さんに送るも、十一月になってから福本さんは十月九日に逝去したと妻のふじさん(92)から知らせが届いた。
ふじさんによると、福本さんは文京区生まれ。戦争で父を亡くし、苦労したという。むかし話にも、「(同級生の)中には兵士にとられて戦死した人もいます」と出てくる。それまでは子どものころの話はあまり話さなかったが、コロナ禍で巣ごもり生活を続けていた最中、こま通が楽しい話題を夫婦に提供した。
福本さんは掲載号を読めなかったが、教員だった福本さんの教え子から、「読んだ」とふじさんの元に便りが寄せられた。編集部から届いた掲載号を仏壇にお供えしたふじさん。「喜一郎さんは駒込の思い出を懐かしそうに何度も話してくれた。こま通を知らなければ、あんなにうれしそうに話すことは、なかったでしょう。いつか二人で駒込を歩きたいねと言って、楽しい時間をいただきました」と感謝した。
織田さんは、「喜一郎さんが亡くなった知らせはとても悲しかったが、こま通が触媒となり、駒込の人々に記憶を伝えられたのかな」と想像する。「一人の人生の一部をいただいた責任感のようなものも感じる。これからも、今につながる駒込を伝えたい」
こま通は、駒込地域の商店街の店舗などで入手できるほか、専用サイトでも閲覧できる。四月には、昨年一年間のバックナンバーをまとめた冊子も発売予定だ。専用サイトでは、関連グッズも扱っている。
文・中村真暁
◆紙面へのご意見、ご要望は「t-hatsu@tokyo-np.co.jp」へ。
関連キーワード
PR情報