地方史はおもしろい 先人の努力 課題解決の糸口にも

2021年3月8日 07時03分

「地方史はおもしろい」シリーズの既刊2冊を手にする(左から)桑原さん、廣瀬さん、大嶌さん=横浜市鶴見区で

 地域に残るものに興味を持って、歴史的な観点から掘り下げる。そんな醍醐味(だいごみ)を具体的に紹介する本がある。「地方史研究協議会」が編集に当たる、シリーズ「地方史はおもしろい」(文学通信)だ。日本各地にまつわる多彩な論考を集めた既刊2冊は好評といい、今月下旬には第3弾が刊行される。 (北爪三記)
 シリーズは、昨年四月に「地方史はおもしろい01」として『日本の歴史を解きほぐす−地域資料からの探求』(一六五〇円)でスタート。同十月に02『日本の歴史を原点から探る−地域資料との出会い』(同)が続いた。新書サイズで、いずれも約二百七十ページ。それぞれ十九人ずつの研究者が、各地で着目したテーマを執筆している。
 例えば、明治時代に作られた「河川台帳」の実測図に流域の構造物が記されていることなどから、埼玉県内の渡良瀬川流域に遺構の残らない中世の城郭「柏戸城」があった可能性を指摘する「『河川台帳』に遺(のこ)されていた幻の中世城郭を追う」(01より)。
 江戸時代に設けられたことが分かっている高輪、四谷の大木戸と異なり、古文書などから存在を確認できない中山道板橋宿の大木戸について考える「大木戸はあったのか−地域の歴史を読み直す」(02より)など、資料を示しながらわかりやすくまとめられている。
 「地域の歴史や資料に興味を持つ人の裾野を広げる本にしたいと、歴史用語の説明や振り仮名は丁寧にしました。好きなところから読んでもらえたら」。協議会の会員でシリーズの企画・編集に当たった一人、大嶌聖子さん(52)=淑徳大学アーカイブズ専門員=は期待を込める。
 協議会は、「日本史研究の基礎である地方史研究の推進」を目的として、一九五〇年に発足。歴史資料の保存運動にも取り組んできた。現在、会員は約千四百人。昨年の創立七十周年に合わせて企画されたのが、本シリーズだ。
 背景には、東日本大震災をはじめとする地震や台風、豪雨など、近年相次ぐ災害によって地域の資料が失われることへの危機感がある。多くの人にその価値を知ってもらい、身近に感じてもらうことで、保存につなげていきたいという。
 シリーズ刊行の趣旨などを執筆した前会長の廣瀬良弘(りょうこう)さん(73)=駒沢大学前学長=は「かつては一部の権力者や有名人の古文書が研究の中心だったが、現在はすべての現場資料を大切にするのが全体の流れ。調べれば調べるほど地域の独自性が浮かぶこともあるし、当時の生活も明らかになってくる」と地域に残る資料の意義を説く。
 シリーズ02の論考の中には、幕末・安政期に猛威を振るったコレラに対し、幕府が指示した治療法や神社で行われた祈祷(きとう)などを、千葉県房総地域に残る古文書から紹介したもの(「地方文書(じかたもんじょ)からひもとく安政のコレラ」)もある。先が見通せないコロナ禍のいま、気になるテーマだ。
 前常任委員長の桑原功一さん(51)=渋沢史料館副館長=は「自分が暮らしている場で、過去の人たちが似たような経験をし、解決のために努力していた。共感する中で『自分も頑張ろう』と、課題解決の意識を強く持てると思うんです」と話す。地域の歴史から学ぶという点からも、資料を見ることを勧める桑原さんは、さらに言う。
 「見るだけではなく、ぜひ地方史研究者になって積極的に調べてみてほしい。誰でも、いつからでも、できると思います」。混迷の時代、未来を照らす探求の種は足元にあるのかもしれない。

今月下旬に刊行予定のシリーズ03『日本の歴史を問いかける-山形県<庄内>からの挑戦』(1650円)

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