「女の方が得だよな」でも実態は逆ですよね…男の自覚なき特権とは 清田隆之さんが解説

2021年3月8日 15時27分
清田隆之さん

清田隆之さん

 女性差別が話題になっても、多くの男性は「自分とは関係ない」と捉えがち。でもそれは、社会に根付く差別意識に気付いていないだけかもしれない。男性の立場からジェンダー問題について発信を続ける文筆家の清田隆之さんに聞いた。(聞き手・出田阿生)
 ―東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗前会長の女性蔑視発言は、多くの男性からも批判の声が上がりました。なぜでしょう。
 あまりにわかりやすく絶望的な差別発言だったので、男性も含め大勢の人がはっきりと「ダメだ」と声を上げやすかったと思います。加えて、男性も共感しやすかったからでは。森さんは「日本のえらいおじさん」をいかにも具現化してますよね。こういうおじさんに上下関係で黙らされてきた男性も多いはず。結論を承認するだけの会議で発言権もなく、勇気を出して意見を言えば冷遇される。そんな森さん的な圧力を日常的に感じる男性が多くいて、わが身に置き換えやすかったのではないでしょうか。
 ―では、なぜ、いままで女性差別に男性はなかなか共感してくれなかったのでしょうか。
 男性優位な社会構造の中で、男性には有形無形のさまざまな「特権」が与えられていると思うのですが、そのことに無自覚である部分が大きいように感じます。よく「レディースデーや女性専用車両があって女の方が得だよな」なんて声も上がりますが、実態は逆ですよね…。身体と性自認が一致していて、異性愛者で健康な男性を「標準」に社会は設計されており、制度やインフラをストレスなく利用できてしまう。
 一方、女性や子ども、障害者など、「標準」から外れた人にとって不便なインフラは数多くありますが、「標準」の男性はそういったことになかなか想像をはせない。英国人男性が書いた「男らしさの終焉」という本の中で、こうした男性が「デフォルトマン」という言葉で紹介されています。環境や習慣、常識やシステムに組み込まれている存在で、「考えなくてすむ」「そういうことになっている」「何となく許されている」ため、気付かずに特権を享受できる。
 ―男性である清田さんがそれに気付くことができたのはなぜですか。
 僕自身もおおむね「標準」の男性として生きてきて、特権を無自覚に享受してきた側だと思います。なのでまったく人ごとではないのですが、たまたま大学時代に始めた、恋愛の話を聞くユニット活動を続けてきたことが、ジェンダーの問題を考えるきっかけになったのは事実です。われわれのところに恋バナ(恋愛話)をしに来る人の95%が女性かつ異性愛者の人なので、必然的に「彼氏が」「夫が」という悩みをたくさん聞くことになります。そこに登場する男性の言動にあまりに共通点が多かった。たとえば謝らない、話を聞かない、すぐ不機嫌になる…。そこで、ハッとさせられました。自分自身も恋人や女友達、妻に似たようなことをやらかしてしまったことがあるぞ、と…。
 次第に違和感がたまり、ついに「ああこれがジェンダー問題なのか」とつながった。僕は学生時代からサブカルと呼ばれるジャンルの愛読者で、上野千鶴子さんや北原みのりさんらの著作もその流れで読んでいたのですが、そこに書かれていることが恋愛相談で出てくる男性の話と重なり、ようやくフェミニズムと接続する問題だと気づきました。自分も含む男性たちが一様に似た言動をするのは、当人の性格や価値観の問題もあるけれど、実はジェンダーとして植え付けられた影響も大きいと知りました。
 ―先日、公表された民間シンクタンクの意識調査では、いまの社会で「男性が優遇されている」と感じる女性は3分の2を占めた一方、男性は約半数だけでした。
 女と男では、見えている世界があまりにも違うと感じます。女性は歩いているだけで変な目でじろじろ見られたり、同じ仕事をしているのに女だからと扱いに差をつけられたりする。コンビニに行こうと夜道を歩くだけで、痴漢にあうかも、もしかして殺されるかも、と考えざるを得ない。僕は学生時代、女友達から「男の先輩にいきなり背後から抱きつかれて怖かった」と聞いて「なんで男の部屋に行くんだよ」と言って、彼女を二重に傷つけてしまったことがあります。それが「セカンドレイプ」と呼ばれる行為だと知ったのも、ジェンダーを学んでからのことでした。
 ―職場でのヒール靴強制をやめて、と訴えた女性の運動に「男だってネクタイと革靴を我慢している」と攻撃する男性がいました。
 根底には人権に対する意識の低さがあるように思います。本来なら、抗議する相手は我慢を強要する組織や社会のはずなのに、なぜか声を上げた女性を攻撃してしまう。それはおそらく、男性が「弱音を吐くな、感情を出すな」とすり込まれ、自分自身を大事にできていないからではないでしょうか。
 ―男性は、どうしたら気付けるのでしょう。
 男性にジェンダーの話を聞いてもらうのは本当に難しいと感じていますが、耳を傾けてくれるタイミングもあって、それはクライシスに陥ったときです。失敗や挫折で苦しい時、漠然と抱いてきたつらさの原因に「男らしさの呪縛」が関係していたことを知ると、まるでオセロがひっくり返るように感覚や価値観が変化したりすることがある。僕自身も一昨年に双子が生まれ、子育てをする中で、社会の速度にまるでついていけない恐怖を味わいました。ベビーカーを1日押すだけでも、段差とか階段とか、世の中の見え方がずいぶん変わりました。デフォルトマンを中心に設計されている社会に、さまざまな異議申し立ての声が上がっているのが、2021年の現在ではないかと感じます。
 清田隆之(きよた・たかゆき) 1980年東京都生まれ。文筆業、恋バナユニット「桃山商事」代表。同ユニットは大学時代に仲間と設立し、これまで1200人以上の恋愛相談に耳を傾けてきた。そこから考察した恋愛・ジェンダーの問題を、コラムやラジオで発信している。
 自らの過去を赤裸々に振り返り、当事者として「男性性」や「性差別」を生む社会背景や原因を探究した「さよなら、俺たち」(スタンド・ブックス、2020年)、恋愛相談を通して浮かび上がった男性の言動の特徴を傾向別に分類・分析した「よかれと思ってやったのに―男たちの『失敗学』入門」(晶文社、19年)の単著がある。桃山商事としての著書も多数あり、近著は「どうして男は恋人より男友達を優先しがちなのか」(イースト・プレス)。

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