福祉国家スウェーデン、コロナで死者多数 民営化進み「金、金、金」

2021年3月8日 20時10分
 世界中でまん延した新型コロナウイルスへの対応を巡り、各国の特性が浮き彫りになった。中でも、多数の感染者によって社会的な抗体を作る「集団免疫」を目指したスウェーデンは異色だった。欧米の主流だった厳しい都市封鎖を拒絶し、多くの死者を出した。高福祉国家のイメージがある同国で、何が起きていたのか。現地在住の日本人が語った。(沢田千秋)
 「平等、公平で高福祉というのが、日本人の一般的なスウェーデンのイメージだろう」と話すのは、東京都小平市出身の近藤浩一さん(45)。通信機器大手「エリクソン」の社員として、2012年からスウェーデン第2の都市イエーテボリに暮らす。自身もこの国にあこがれて移住したが、その固定観念を打破するため1月、「スウェーデン福祉大国の深層」(水曜社)を出版した。
 近藤さんは「スウェーデンは先進的に人権やジェンダー、環境問題に取り組み、ノーベル賞の存在もあって理想郷のようなイメージがついた」と推測。イケア、H&M、ボルボなどに代表される独特の洗練されたデザインも、イメージ作りに一役買っているようだ。
 だが実際に住んでみると「何度もひどい目に遭った」という。公共医療機関では、体に発疹ができても原因不明との理由で専門医を紹介してもらえず自然治癒。腰痛のため自費で民間専門医を受診したら、体も触らず「ヘルニアだ」と決め付けられ、口論になった。
 近年、高齢者介護施設で虐待や餓死事件も発生。近藤さんは「1990年代から資本主義的な競争原理が導入され、社会保障分野でも民営化が進み質が落ちた」とみる。知人のスウェーデン人も「30~40年前は福祉国家だったが、いつの間にか『金、金、金』ばかり」とこぼしているという。
 

近藤浩一さん=本人提供

 コロナ対策は、首相自ら「全員が人としての責任を果たす」と国民の自主性を尊重し、飲食店の閉店やマスクの義務化をせず、集団免疫を目指した。病床数確保のため、国は高齢の感染者を集中治療室に入れないよう通達を出し、医療現場で『命の選別』があったと判明。以後、政府は集団免疫路線を否定し、国王が政府のコロナ対策を「失敗」と評するなど迷走した。結果、死亡率は人口100万人当たり約1200人と世界有数で、日本の約20倍だ。
 近藤さんは「この国の医療や高齢者施設の脆弱性から、有事に対応できないと予想はできた。ただ、コロナ対策では多額の金を企業支援に回す一方、人命を尊重せず、予想以上の経済重視に驚いた」と話す。

2020年6月、各国が都市封鎖を行う中、スウェーデンのイエーテボリのバーは多くの客でにぎわった=近藤浩一さん撮影

 北欧に伝わる十の戒めを説いた「ヤンテの掟」の中に「自分が人より優れていると思うな」という教えがある。スウェーデン人はこれに従い、自己主張や本音を言うことを好まないという。「衝突を嫌う上、災害や戦争など緊急事態や危機が長い間なく、政府に従っていれば何とかなった。今回も楽観視していた」(近藤さん)
 しかし、コロナ禍で、家族以外と政治の話をしたがらないスウェーデン人に変化が表れている。近藤さんは言う。「みんな、これほど人が死ぬとは思っていなかった。政府のコロナ政策に不満を持ち、口に出す人は少なくない。来年の選挙では政権交代が起きるとも言われている」

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