「種をまき、花を見て前進しよう」東京から陸前高田へ Tシャツが結んだ絆

2021年3月9日 06時00分
 東京新聞など地方紙29紙の協働企画「#311jp」に、震災にまつわる投稿を寄せた、東京都東村山市の無職松本勝美さん(78)に思いを聞きました。(聞き手・小形佳奈)

松本勝美さんオリジナルの図案と被災地から届いたお礼の手紙=東京都東村山市で

◆東村山市の松本さん「復興済んだとは言えない」

 「こんな時だからこそ、花見をやります」
 震災直後の4月、自粛ムードの中できっぱりと宣言する岩手県陸前高田市の菅野剛さんの姿をテレビで見て、心を揺さぶられました。
 富士山と桜、ネコなど自分で絵柄をデザイン。シルクスクリーンで印刷したTシャツを大小合わせて100枚作り、津波で家が流された菅野さんが避難していたお寺に送ったのです。住所が分からず「陸前高田市」とし、寺の名前だけ書きました。宅配業者からは「こんな時だから、寺まで届くかどうか」と言われました。

オリジナルのTシャツを着て記者の質問に答える松本勝美さん=東京都東村山市で

 4月下旬、東北の桜が満開のころ、私が送ったTシャツを着て和太鼓をたたく青年の姿をテレビで見つけました。前後して菅野さんからお礼のはがきが届きました。「種をまき、花を見て前進していこうと思う」と書かれたはがきは、今も大事に取ってあります。
 菅野さんは、地元で伝統の和太鼓演奏を指導していました。津波で流された太鼓を集め、修理して指導を続けていて、その様子がテレビで紹介されたようです。お寺近くの保育所からも子どもたちがTシャツを着て太鼓を演奏する写真が送られてきました。
 Tシャツを送る活動は2015年まで続け、4月に陸前高田市を訪ねました。菅野さんには会えませんでしたが、保育所で新しいTシャツを、市役所で寄付金を渡しました。桜の季節でしたが、かさ上げ工事の真っ最中でびっくりするくらい何もありませんでした。
 被災地は復興が済んだとはいえません。国は「復興の証し」と東京五輪・パラリンピックを招致し、今は「コロナに打ち勝った証し」として開催しようとしていますが、無理な話です。
 6年前、仮設住宅に住んでいたお年寄りは元気だろうか。私には心配することしかできません。国や行政が、もっと手を差し伸べてほしいです。

◆菅野さん Tシャツは今も手元に

 東京新聞では、菅野剛さん(71)に電話で話を聞きました。
 かさ上げされた自宅跡地に家を再建。昨年11月から暮らしています。コロナ禍で太鼓演奏の場はなくなりましたが、保育園児や小学生に指導しています。
 松本さんのTシャツは今も手元にあります。「震災当時、保育園児だった子どもたちは中高生。きっと覚えていると思います」
 「どんな10年でしたか」と尋ねると「生き方を変えたわけじゃないから。ただの10年でしたよ」との答え。被災直後から米作りと酒造りを再開。「周りの人も同じ。『これ(震災前と同じこと)しかできない』って。そうやって生きてきたんです」。とつとつと語ってくれました。

 松本さんは、東京新聞など地方紙29紙の協働企画「#311jp」に震災エピソードを寄せてくれました。同企画ではエピソードを引き続き募集しています。投稿は専用フォームをお使い下さい。専用フォームはこちら

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