<東海第二原発の10年>(中)攻防 周辺自治体の権限広がる

2021年3月9日 07時24分
 前那珂市長の海野徹さん(71)は時に語気を強めながら、東海第二原発(東海村)の再稼働を目指す日本原子力発電(原電)との五年半にわたる攻防をこう振り返った。
 「福島第一原発事故を経験し、二度と原発で事故は起こしてはいけないという信念があった。原電に対して『絶対に受け入れさせる』と強く思っていた」
 海野さんが受け入れさせたのは、再稼働する際の事前了解の権限だ。原電は二〇一八年三月二十九日、立地する東海村だけでなく、事故に備えて広域避難計画の策定が義務付けられている半径三十キロ圏の那珂、水戸、日立、常陸太田、ひたちなか五市と安全協定を結び、事前了解の権限を与えた。

■事故リスク

 原発の新増設や再稼働に当たっては従来、電力会社は立地自治体と県の了解を得ればよかった。事前了解の対象を三十キロ圏の市町村に広げる仕組みは画期的だった。
 この「茨城方式」の発案者は、前東海村長の村上達也さん(78)だ。福島原発事故の放射能汚染が広範囲に及んだことに危機感を覚えた。「東海第二で事故が起きれば、水戸市がゴーストタウン化するのかと思うとぞっとした」
 村上さんは、県と村に限定されていた事前了解の権限を周辺五市に拡大しようと、海野さんら五市長と一緒に「原子力所在地域首長懇談会」を設立。一二年七月に原電との交渉を開始した。

「住民の意見に基づき、早く再稼働の是非を判断することが重要だ」と話す海野徹さん=那珂市の自宅で

■揺れる原電

 原電がすんなりと受け入れるはずはなかった。了解対象の自治体が増えれば、再稼働のハードルは上がる。大株主である大手電力会社の原発立地地域への波及も恐れた。
 原電は回答の先送りなどで沈静化を図る。ようやく出してきた協定案でも了解対象の拡大には触れず、「事前の説明」でお茶を濁そうとした。
 原電が軟化したのは一七年三月。村松衛社長が交渉の席で「自治体の合意が得られるまでは再稼働できない覚悟」と強調したのだ。老朽原発の東海第二は、運転期限の四十年を迎える一八年十一月の前に、最長二十年の運転延長を原子力規制委員会に認めさせる必要があった。原電としては、周辺自治体との対立は極力避けたかった。
 そして一七年十一月、原電は了解対象を六市村に拡大する方針を表明した。それでも、協定案では「事前了解は規定されていないが、事前協議により実質的に担保されている」と自治体の権限を明確にせず、骨抜きを狙う意図が透けて見えた。

■譲れぬ一線

 村上さんは既に村長を退いていたが、後に再稼働反対を公言する海野さんを先頭に、首長側は猛反発した。
 首長側の毅然(きぜん)とした態度に気おされたのか、原電は一八年三月、「事前協議により、実質的に六市村の事前了解を得る仕組みとする」と明記した協定案を提示。なお曖昧な表現は残ったものの、首長側は「一自治体でも反対すれば再稼働できない」との認識を共有した上でサインした。
 海野さんは「原電は踏み込んだなと感じた。周辺自治体の首長が再稼働の判断をできるようになったのは大きい」と評価する。
 協定の締結から間もなく三年。東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)の周辺自治体では「茨城方式」を模索する動きも出ている。六市村では現在、住民の意向をどうくみ取るかが焦点になっている。
 海野さんは、協定が「宝の持ち腐れ」になることを憂う。「主役は住民。アンケートなどで住民の意見を聞き、再稼働の是非を判断することが重要だ」 (松村真一郎)

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