【動画あり】出合えたらラッキー!?空き店舗が舞台の秘密の音楽会がコロナ禍で傷ついたニューヨークを包む

2021年3月9日 12時00分

米ニューヨークの空き店舗のショーウィンドー越しに開かれたコンサート。通行人が足を止め、久しぶりの生演奏を楽しんだ

 コロナ禍に沈む米ニューヨークで、空き店舗を舞台にしたコンサートが話題を呼んでいる。公演の機会を失った音楽家と劇場に行けない市民らを、ショーウインドーのガラス越しに結ぶ新しい催しだ。密集を避けるため日時や場所の告知はない。出合えたら幸運。そんな秘密の音楽会が、傷ついた街を優しく包む。 (ニューヨーク・杉藤貴浩、写真も)

◆「オンラインでは味わえない素晴らしさ、思い出して」

音楽会に込めた思いを語るケイト・シーランさん

 2月下旬の夕暮れ。マンハッタンの裏通りに、チェロとピアノの澄んだ調べが響いてきた。ジャズにアレンジされたジョン・レノンの名曲「イマジン」。歌声の元をたどると、閉店した服飾店に行き着いた。
 ショーウインドーの中には、通りに向かって歌い、演奏し、笑って手を振る音楽家たち。帰宅や買い物途中の市民が足を止め、アンプ越しに耳を傾けている。「同じ場所、時間に音楽を共に楽しむ。こんな時期にこそ、オンラインでは味わえない素晴らしさを思い出してほしかった」。主催する非営利団体カウフマン音楽センターのケイト・シーラン事務局長(41)が、企画を始めた思いを明かす。
 昨春のコロナの大流行から、劇場街ブロードウェーの幕は下り、多くのホールやライブ会場も閉まったまま。ニューヨークでは娯楽産業全体で60%の雇用がなくなったともいわれ、多くの音楽家たちも夢と収入を失おうとしていた。

◆ショーウインドーのガラスで感染対策、話題性もバッチリ

 そこで、センターは芸術支援財団と協力し、出演者への報酬を確保。街の地盤沈下を心配するオーナーから無償で空き店舗を借り、1月から40回以上の演奏を重ねてきた。シーランさんは「地域の助けなしにはできなかった」と語る。ショーウインドーのガラスは感染対策に好都合。事前の告知をなくしたことで、話題性も高まった。

空き店舗で「イマジン」などを歌い上げ、あいさつするガブリエル・ストラベリさん

 これまで出演した音楽家はさまざまなジャンルから100人に上る。この日、イマジンを歌った歌手ガブリエル・ストラベリさん(41)は言う。「ガラス越しだけど、私の音楽に反応し、踊る人たちの姿が生で見られた。宙を舞っているような気分」。この曲を選んだのは「私たちには、世界を望む場所に変える力があると想像してほしかったから」。公演中止で出会えなかった観客、苦しむ音楽仲間たちを思ってマイクに向かったという。
 まだ厳しい寒さの残る街角。30分の演奏を聞き終えると、人々はコートの襟を立て、足早に去っていく。でも、みな表情は温かい。その1人、教師のキャサリン・フィリップさん(46)は「これがこの街の魔法の力。偶然の音楽が、孤独な日々にも春が来て花が咲くことを教えてくれた」。
 秘密の音楽会は今月末まで。シーランさんらは延長に向け調整を続けている。

PR情報