原発事故の賠償請求権に「時効」の壁 弁護士「東電の方針信用できない」

2021年3月12日 05時50分
 東京電力福島第一原発事故から10年となる3月11日以降、被災者が東電に損害賠償を求める際には、法律で定められた「時効」という壁が立ちはだかる。東電は時効を過ぎてもすぐには賠償請求を断らないとしているが、現状でも賠償に応じないケースが相次ぐ。賠償交渉を経験した弁護士や被災者からは「救済の道が断たれかねない」と不安の声が上がる。(小野沢健太)

今後の福島第一原発事故賠償請求の流れ

◆損害の起点は事故の日か

 原発事故の賠償を定めた特例法は「損害を知った時から10年」で時効により請求権が失われると規定している。この損害の起点は、原発事故が起きた日なのだろうか。
 賠償制度を担当する文部科学省原子力損害賠償対策室の担当者は「被災者が置かれている状況は個別に違うので、事故10年で一律に時効を迎えるわけではない。時効が成立するかは、個別に裁判などで判断されることになる」と話す。
 避難による精神的損害については「損害が日々発生しているので、避難が続く間は起算点が毎日更新されていくという考え方もあり得る」と付け加えた。
 民法は、時効で権利が消滅するには、利益を受ける側が時効成立を主張する必要があると定めている。東電が時効の成立を主張しなければ、損害発生から10年後の賠償請求でも賠償を受けられる可能性がある。

◆東電、時効後も「柔軟に対応」と主張

 東電によると、賠償請求していない被災者は765人(昨年末時点)。集計は避難指示区域の住民に限っており、区域外の住民を含めるとさらに多い。時効後も「一律に請求を断ることはなく、柔軟に対応する」と広報担当者。少なくとも、被災者を門前払いすることはなさそうだ。
 東電は2014年、賠償の姿勢として3つの誓いを提示。「最後の1人が新しい生活を迎えることができるまで、被害者に寄り添い賠償を貫徹する」とした。
 誓いを文字通り受け取れば、東電が今後、時効成立を主張しないように見える。だが、福島県弁護士会の槙裕康会長は「時効を主張しないという東電の方針は信用できない」と不信感をあらわにする。
 被災者が賠償請求する方法は、①東電への直接請求②国の原子力損害賠償紛争解決センターが仲介して和解案を示し、裁判よりも短期間で進む裁判外紛争解決手続き(ADR)③裁判の3つがある。
 センターによると、ADRでは、約2万6000件の申し立てのうち8割で和解が成立。ただ、東電は一般住民からの申し立て55件で和解案を拒否し、18年以降は手続きの打ち切りが続いている。槙会長は「東電は自らの誓いを簡単に破り、ADRを機能させていない」と批判する。

◆時効延長に法改正の動きなく

 日本弁護士連合会は昨年3月、特例法を改正して時効を10年延長するよう求める意見書を公表。しかし、政府や国会に法改正へ向けた具体的な動きはない。福島県南相馬市の任期付き職員として年間500~600件の賠償相談に当たってきた小林素弁護士は訴える。
 「10年たってようやく生活が落ち着き、賠償請求を考えられるようになった被災者もたくさんいる。救済を狭めないためにも、法改正をして今後も賠償を義務づけるべきだ」

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