「被災者の苦しみに向き合おうとしない」 東電に和解案を拒否された伊藤さん

2021年3月12日 05時50分

閉校となった玉野小学校の前で、東京電力との賠償交渉を振り返る伊藤一郎さん=福島県相馬市で

 「どうして加害者の東電が守られるのか」。裁判外紛争解決手続き(ADR)で東京電力に和解案を拒否された伊藤一郎さん(73)=福島県相馬市玉野=は、5年以上かかった手続きが打ち切られ、賠償を求める気力を失った。事故当事者に賠償判断が委ねられている現状に、怒りを隠さない。
 福島第一原発から約50キロ離れた山あいの相馬市玉野地区は、政府の避難指示区域にならなかったが、子育て世代を中心に県内外への避難が相次いだ。
 過疎化が一気に進み、4年前に地区の小中学校はいずれも閉校した。事故前に450人ほどいた住民は、今では320人ほどに減った。市の調査で食品基準を超える放射性物質が見つかり、住民の楽しみだったキノコや山菜も食べられなくなった。
 伊藤さんら地区の区長が中心となり、全世帯419人が2014年、集団でADRを申し立てた。紛争解決センターは、精神的苦痛への賠償として、国の指針を超える1人最大20万円を賠償する和解案を示したが、東電は拒否した。

◆東電側、同じ質問繰り返す

 四十数回に及んだ交渉では、東電側は「共通の被害は何か」「大人と子どもで被害にどんな違いがあるのか」など同じ質問を繰り返した。伊藤さんは「こちらの回答に聞く耳を持たず、ずっと同じことの繰り返し。時間稼ぎをして、あきらめるのを待っているような感じだった」と振り返る。
 「これ以上やっても無駄だ」。19年12月、手続きが打ち切られた。訴訟に踏み切る選択肢もあったが、「すぐに終わると言われたADRで5年もかかった。もう裁判をする元気はないよ」と断念した。

◆「10年たっても救われない」

 「加害者なのに反省もなく、被災者の苦しみに向き合おうともしない。賠償金を払いたくない姿勢がはっきり見える。そんな東電を国が許すから、時効も延びないんでしょう。10年たっても被災者は救われない」(小野沢健太)

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