<中村雅之 和菓子の芸心>最中「みむろ」(奈良県桜井市・白玉屋榮壽) 漂う古代へのロマン

2021年3月12日 08時26分

イラスト・中村鎭

 奈良市内から車で奈良盆地の南東に位置する大神(おおみわ)神社を目指すと、近づくにつれカーナビ上に古墳の表示が次々と現れ、その辺りが古代国家の生まれた土地であることを実感させてくれる。
 大神神社は、古くから三輪明神として知られている。「古事記」「日本書紀」にも創建の記述があり、日本で最も古い神社の一つとされる。摂社の檜原(ひばら)神社は「元伊勢」と呼ばれ、伊勢神宮よりも先に天照大神(あまてらすおおみかみ)が祀(まつ)られたと言われている。
 古代の神道では、自然そのものが信仰の対象だった。古い神社では、巨石、滝、山が御神体(ごしんたい)というところもある。三輪明神の御神体も、ゆったりとした山裾が広がる三輪山だ。
 この三輪山の別名である「三諸(みむろ)山」にちなんだのが、白玉屋榮壽(えいじゅ)の最中(もなか)「みむろ」。幕末から三輪名物として知られる。皮の餅米も、餡(あん)の小豆も、地元・奈良県産にこだわり続けている。「大和大納言小豆」が足りなくなりそうになった時には、新聞広告を通じ、直接、県内の農家にSOSを出したほど。
 皮の中には、漉(こ)し餡と粒餡を別々に炊き上げ、後で混ぜ合わせる手の掛かった「かのこ餡」がたっぷり入っている。
 普通、神社には、御神体が祀られている本殿があり、その前に拝殿がある。しかし、三輪明神の御神体は大き過ぎて建物の中には入らないから本殿がなく、山との結界である三ツ鳥居の前に拝殿が立つ。
 拝殿へ向かう短い石段の右手に「衣掛杉(ころもがけのすぎ)」=写真=という古木がある。今は朽ちて太い根元が残るだけだが、屋根で覆われ大切に守られている。
 これこそ、能「三輪」に所縁(ゆかり)の杉だ。三輪明神が巫女(みこ)に憑(つ)いて名僧・玄賓僧都(げんぴんそうず)の前に現れ、天照大神の「岩戸隠れ」の時の神楽を再現してみせた、その場所とされる。
 (横浜能楽堂芸術監督)
<白玉屋榮壽本店> 奈良県桜井市三輪660の1。(電)0744・43・3668。小型8個入り930円。

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