<評>菊五郎、濃厚な色気 歌舞伎座「三月大歌舞伎」など

2021年3月12日 08時29分
 歌舞伎座の第二部に時代物と世話物の好舞台が並ぶ。
 「一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき) 熊谷陣屋(くまがいじんや)」は片岡仁左衛門の熊谷。花道の出での数珠を持っての発心の思い入れ、小次郎の首を相模に直接手渡すやり方、まず兜(かぶと)を脱いで僧形を現す段取りなど、型を整理、工夫することによって芝居全体の流れが合理的になるとともに現代性を増している。中村歌六の弥陀六(みだろく)は皮肉で一徹な人間像を巧みに描き出し、片岡孝太郎の相模も落ち着いた悲哀があっていい。中村錦之助の義経。
 「雪暮夜入谷畦道(ゆきのゆうべいりやのあぜみち)」では尾上菊五郎の直次郎がさらさらと自然な演技の中に濃厚な色気を漂わせる。中村時蔵の三千歳(みちとせ)、市川団蔵の丑松(うしまつ)、中村東蔵の丈賀と周囲もそろう。
 第三部「楼門五三桐(さんもんごさんのきり)」は中村吉右衛門の五右衛門の顔が錦絵の立派さ。松本幸四郎の久吉もニン(持ち味)にぴったりの爽やかさで、短い一幕がショーではなくきちんと芝居になっている。
 他に坂東玉三郎による舞踊でAプロが「隅田川」、Bプロが「雪」「鐘ケ岬(かねがみさき)」の変則上演。
 第一部は中村勘九郎、中村七之助の「猿若江戸の初櫓(はつやぐら)」に、片岡愛之助、尾上松緑、中村莟玉(かんぎょく)の「戻駕色相肩(もどりかごいろにあいかた)」。二十九日(二十二日は休演)まで。
 国立劇場は「饗応(きょうおう)」の付いた「時今也桔梗旗揚(ときはいまききょうのはたあげ)」で尾上菊之助が光秀を熱演。ところどころに監修の吉右衛門そのままの声音が現れて芸の伝承を実感させる。坂東彦三郎の春永はもう少しメリハリがほしい。中村又五郎の安田作兵衛が幕切れをしっかりと引き締めるのはさすが。片岡亀蔵による解説「入門 歌舞伎の“明智光秀”」が付く。二十七日(十九日は休演)まで。 (矢内賢二=歌舞伎研究家)

関連キーワード

PR情報