「考え続けるきっかけにして」 作品で反原発訴える美術作家・日下正彦さん

2021年3月12日 17時00分
 東京電力福島第一原発事故から10年を迎え、美術作家の日下正彦さん(63)=東京都町田市=が練馬区のギャラリー水・土・木みずときで、反原発を訴える作品展を開いている。「事故を招いた人間の身勝手さを批判できるのは人間以外の存在だ」と悲哀や絶望の表情を浮かべる犬をモチーフにした作品が並ぶ。原料に原発報道に力を入れてきた東京新聞を使い、原発がなくならない社会に疑問を投げかけている。(西川正志)

◆原発報道の本紙古紙を原料に

 伏せの体勢で、悲しげな表情を浮かべる犬の作品。足元には血を思わせる赤黒い塗料が広がる。モデルは日下さんが飼う雑種の雄で、東京新聞の古紙を水に溶かし、のりなどを混ぜて作った粘土でできている。

日下正彦さんが制作した作品「溢したミルク(Spilled Milk)」=いずれも東京都練馬区で

 赤黒い塗料は、血液で作られたミルクを表現した。作品展のタイトルは「こぼしたミルク」。英語のことわざ「こぼしたミルクを嘆いても仕方がない」を、日下さんは「原発の危険性を見て見ぬふりをし、事故が起きた。大切なことを取りこぼしてきた結果だ」と解釈し、名付けた。

◆チェルノブイリ事故に衝撃

 岩手県奥州市出身の日下さんは、東京造形大在学中に立体作品を作り始めた。卒業後、作家として活動する中、1986年にチェルノブイリ原発事故が発生した。88年、日本であった反原発の野外フェスに出品。フェスで反原発の講演を聞き、原発の危険性を知る。以降、原発の恐ろしさが心から消えなかった。
 2011年3月11日、恐れていた原発事故が現実となった。恐怖とともに怒りがわいた。「自分にできることは何か」。アトリエにこもり、爆発した原子炉格納容器をイメージした作品を感情のままに作った。

爆発した原子炉格納容器をイメージした作品について語る日下正彦さん

 反原発デモにも積極的に参加し、一時は創作から遠ざかった。だが「デモが僕の役目なのか」と自問自答し、作品で原発の恐ろしさを伝えようと思い立った。

◆「人災を批判できるのは人間以外だ」

 反原発というテーマと向き合い、自身も原発で作られた電気などその恩恵を受けていたことにがくぜんとした。そして「人災とも言える事故を批判できるのは人間以外だ」と考え、長年作り続けた犬をモチーフにした作品での表現を模索。奇抜さやユニークさを求めた作風は一変し、犬たちの表情には悲しみや恐怖がにじみ出るようになった。
 事故を自分なりに掘り下げ、たどり着いた作品は一見して、反原発を直接的に訴えるものではない。「見た人がどう捉えるかは自由だ」と話す日下さんは「大切なのは事故を忘れず、原発について考え続けること。そのきっかけになってほしい」と願っている。
 作品展は14日まで。入場無料。開館時間は正午から午後5時まで。最終日は午後3時まで。

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