反政府デモ開始から10年のシリア内戦、見えぬ終結 難民660万人、死者60万人

2021年3月15日 21時49分
 【カイロ=蜘手美鶴】内戦が続くシリアで、混乱のきっかけとなった大規模な反政府デモが始まってから、15日で10年を迎えた。中東の独裁政権を倒した民主化運動「アラブの春」のうねりを受けたデモは、反体制派と政府軍の内戦へ発展。イスラム過激派や地域大国の介入で情勢は複雑化し、660万人以上の難民を生んだ末に、現在も混乱の終わりは見えない。

11日、カイロ近郊で、「内戦が家族をばらばらにした」と話すシリア人のオクパ・フサインさん=蜘手美鶴撮影

◆家族の離散

 エジプトの首都カイロ近郊にあるシリア人街。路上にはシリア人が好む野菜のピクルスの露店が並び、商店にはシリア産オリーブオイルやチーズが売られている。内戦から逃れてきたシリア人がコミュニティーを作って暮らしている。
 ケバブ店で働くオクパ・フサインさん(27)もその1人。2017年に妻とスーダン経由でエジプトに密入国し、その後長女ナダちゃん(9カ月)に恵まれた。兄と姉、弟もドイツ、トルコ、イラクに逃れたが、父母は今もシリアに留まる。
 帰国すれば徴兵されるため戻れず、携帯電話のテレビ通話でしか家族の顔は見られない。昔の様に家族が集うことはかなわず、「両親に孫を会わせることもできない。心がバラバラになったようだ」と話す。

11日、カイロ近郊で、ケバブ店で働くシリア人のオクパ・フサインさん(右)=蜘手美鶴撮影

◆変容する内戦

 10年前、民主化を求めるデモが南部ダラアで始まり、一気に内戦の深みにはまっていった。その後、混乱に乗じて過激派組織「イスラム国」(IS)が勢力を拡大すると、国際社会を巻き込んだIS掃討作戦へと変容。当初の政府軍対反体制派の構図は崩れ、北部の少数民族クルド人が自治権拡大を狙い、それに隣国トルコが反発するなど、対立の火種が拡大していった。
 シリア人権監視団(ロンドン)によると、戦闘を避けて1200万人超が国外に流出し、うち約660万人は難民となった。死者は60万人を超える。
 アサド政権は15年以降、ロシアの支援を得て一気に支配地を回復。現在は領土の7割程度まで掌握し、政権の優勢は揺るがない状況となっている。日常的な戦闘はイスラム過激派の「最後の砦」とされる北西部イドリブ県に集中し、首都ダマスカスなど主要都市では戦闘は終息。ただ、内戦の終結には至っていない。

◆経済悪化

 現在、市民を最も苦しめているのは悪化する経済だ。内戦や米国の経済制裁の影響で食料品などの価格が高騰。新型コロナウイルスのまん延でさらに状況は悪くなり、パンなどの主食が不足する。内戦当初の為替レートは1ドル=40シリアポンド台だったが、今月は4000ポンド近くまで下落し、深刻な外貨不足に陥っている。
 3月初旬に首都ダマスカスからカイロに逃れてきハビィ・フサインさん(17)は「パンを買うために5時間並ばないといけなかった。それでも買えない日もある」と明かす。同じくカイロに避難したハシャム・メッカさん(24)は「とにかく食料が手に入らないと聞く。今は『飢えの戦争』が始まっている」と話す。

◆他国介入で長期化

 内戦長期化の背景には、地域大国の介入が大きく影響する。政権を支援するロシアとイラン、イスラム教スンニ派の反体制派を支えるトルコなどが入り乱れ、それぞれの思惑が混乱に拍車をかけている。
 ロシアはシリア西部の海軍基地を足場に地中海や中東への進出を狙い、イランは民兵組織を通じて中東への勢力を広げる。トルコは北部で影響力を増したクルド人の押さえ込みと、覇権拡大を試みる。自国の利益確保のため各勢力を支援し、長期化を招いている。
 また、イランと対立する米国やイスラエルにとっては、イランと関係が良好なアサド政権はイランの進出を抑える「防波堤」にもなり得る存在だ。独裁政権の批判はするものの、アサド政権を事実上受け入れている側面もあり、中東情勢に詳しいアハラム政治戦略研究センター(エジプト)のアミール・イスカンダル氏は「各国の介入が続く限り内戦に終わりはない。戦闘が収まっても社会的混乱は続き、国の再建は容易でない」と話す。

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