貧困の形 コロナで多様化<新宿共助>

2021年3月17日 06時30分

無料で配られた食品を手に、都庁前の会場を後にする男性=新宿区で

◆新宿共助 食品配布の会場から

 男性が頭を抱えてスーツケースに座っている。しゃがみ込んだまま震えている女性は、何におびえているのだろうか。寄り添い合う若いカップルもいる。
 六日午後一時過ぎ。都庁前の通路に蛇行した長い列ができた。支援団体「新宿ごはんプラス」が毎週土曜日に無料で配る食品を受け取りに来た人たちだ。二度目の緊急事態宣言が出てから急増した。この日は、三百八人が並んだ。二〇一四年七月に活動が始まってからの最多記録となった。
 記者の私は、ここに一九年九月から通っている。
 今日、明日の食事に困る人たちから生の声を聞き、仕事に生かしたいと思ったからだ。スタッフやボランティアの学生らと一緒になって袋に詰めた弁当やパンを手渡したり、机やいすを並べて相談を聞いたりしてきた。

食品配布の前に打ち合わせをするスタッフら

 しばらくは路上生活者や高齢者ばかりだった。ほとんどは男性。一日に並ぶのは六十〜八十人といったところ。それが、新型コロナの感染拡大で激変した。外見だけでは生活困窮者とは分からない若者や女性が姿を見せる。並ぶ人の表情も日に日に険しくなる。
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 「仕事が全然なくなった。首をくくっちゃうよ」
 昨年四月ごろ、スマートフォンに公衆電話から着信があった。出ると、食品配布の会場で会った男性(39)からだ。建築現場で六年ほど派遣労働をしてきたが、コロナの影響で収入が三分の一になったという。悩みをもっと聞きたかったが、テレホンカードの残額がなくなったのか、電話は話の途中で切れた。
 コロナ禍で何が起きているのか。行列に並ぶ人たちに、これまで以上に真剣に話を聞くようにした。「ここに来た経緯を教えてください」「初めての利用ですか」。多くの人たちからは「話せる状態じゃない」「あんたに話して何になる」と拒絶された。あっちへ行けとばかり手を振られたこともある。
 十一月、食品配布の会場の前に工事現場で見るような三角コーンが登場した。都が、庁舎の敷地の範囲が分かるようにと置いたものだ。閉庁日の土曜日、あたりの人通りは少ない。誰かに迷惑をかけているようにはとても見えないのに、どうしてこんなことをするのだろう。無神経に感じた。
 新宿ごはんプラスの共同代表、大西連さんは「これでは、自分たちは排除される存在なのかと思う人が出るかもしれない」と話し、利用者の一人も「嫌がらせのようだ」と嘆いた。
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 今年一月、列のなかに若い男性の姿を見つけた。二十八歳。歌舞伎町で五年前から経営していた居酒屋を昨年十一月に畳んだ。「夜の街」と呼ばれてイメージの悪化した繁華街は、GoToキャンペーンの期間中も客足は戻らなかった。「従業員には申し訳ない。感染症対策も経済対策も中途半端で、国には期待していない」。小さく声を振り絞った。 (中村真暁)
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 さまざまな背景の人々が集まる多様性の街に、困窮者の命をつなぐ食品の配布会場がある。貧困の現場を知ろうと、一年半前から通い続ける記者が、この場所にたどり着いた人たちの声を伝える。 (随時掲載)
<中村真暁(なかむら・まあき)>
石川県津幡町生まれ。2009年入社。富山支局、北陸本社経済部などを経て2017年から社会部。主に都内の街ダネを担当。台東区と荒川区にまたがり、生活困窮者が多く暮らす山谷地域での取材活動をきっかけに、貧困問題に関心を持つ。2020年貧困ジャーナリズム賞受賞。

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