高校生のための 人物に学ぶ 日本の政治経済史 猪木武徳編著

2021年3月21日 07時00分

◆先人6人それぞれの世界観
[評]小西徳應(明治大教授)

 もし全く知らない高校生に語る機会があったら、あなたは何を伝えるだろうか。私は職業柄、高校生と話す機会があるが、ほとんどが進学相談である。自分の町をよくしたい、世界の貧困問題に取り組みたいなどから、家業を継ぐので社会を知っておきたい、お金持ちになりたいなど、私が在籍する政治経済学部に進学するにも動機は多様だ。そうした生徒たちに何を語るのか、話す場にもよるが、毎回悩ましく思っている。
 本書は、経済史や政治史などの著名な研究者五人が、福沢諭吉、伊藤博文、原敬、北一輝、石橋湛山、西郷隆盛の六人に焦点をあて、高校生を対象として行った講演と質疑応答をもとにつくられている。書名には「日本の政治経済史」とあるが、政治や経済の通史ではなく、なぜこの六人になったのかは不明だが、近代日本の創出とその展開に関わった人たちを論じている。
 はしがきに「執筆者独自の視点からその人物の事績の本質に迫ろうとしている」もので、「人物の考えの中核部分と行動の本質的な特徴」を描こうとしたとある。全章に「この章で学ぶこと」が書いてあり、各執筆者が伝えたいことがわかる。視点も語り口も異なっているが、先人六人の思考方法や問題への対処のし方を通して各人物と社会が理解できる。あるでき事が起こる因果関係や歴史的、社会的背景も解き明かされている。
 読み終えて、六通りの国家観、社会観、あるいは世界秩序観、そうした社会で生きる個人のあり方が論じられていると感じた。現代の若者は今の状況を変えずに、現状で自身と周辺の利益だけを最大化しようとしているように見える。じつはその最大化のためにも、より良くするためにも、社会や国家、世界のありようが重要だ。さらに、そのありようも自分たちが望み、構想し、創造するものだ。
 そうしたことを伝えてくれるとともに、その構築過程にさまざまな形で生涯をかけて関わった六人の葛藤が読みとれる。高校生だけではなく、これからを生きるすべての人に参考となるものだ。
(ミネルヴァ書房・2640円)
1945年生まれ。大阪大、国際日本文化研究センター名誉教授。『デモクラシーの宿命』。

◆もう1冊

鳥海靖著『もういちど読む山川日本近代史』(山川出版社)

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