うたかたの国 日本は歌でできている 松岡正剛著、米山拓矢編

2021年3月21日 07時02分

◆古代から現代の論考を「再編」
[評]石関善治郎(フリー編集者)

 編集者は、何でも知っていなければならない。遺伝子の仕組みから最新のヒット曲まで、知識が必要なのは、雑誌や本で扱う題材が多岐にわたるからだ。松岡は並み外れた知識の持ち主だ。読書案内の著作「松岡正剛 千夜千冊」シリーズに触れたなら、松岡の知識に限界はないのか、と驚嘆する。
 が、並はずれた知識だけでは、松岡の偉業は成し遂げられなかったろう。松岡の仕事が他の分野からも評価されるのは、松岡が「編集」とは何かを見つめ直したことによる。松岡によれば、世の中に編集に関わりのないものはないという。日ごろ、私たちが見聞きする情報は元のままではなく、すべて人の手が加わり「編集」されたもの。一方、自分が行動するとなると、やるべき事を選び、順番を付け、と自然に「編集」をしている。一つ選ぶと、選んだことで連想が始まり、豊かなイメージが想起される。
 「編集」の力は本来、誰もが持っている。この「編集力」を自覚することで編集はジャンルを超えて使えるものになる。松岡は編集の働きを方法化し「編集工学」と名付けた。「編集学校」を開き次世代の育成に取り組んでいる。
 本書は編集学校で学んだ生徒が、松岡の複数の著作から題材を選んで、新たに仕立て直した。テーマは、松岡の文明批評の中でも評価の高い「日本文化」。そのうちの「歌」に的を絞っている。「歌」=短歌や俳句・詩だけでない。声にして歌われる「歌」、今様・浄瑠璃・小唄からJポップまでが、ふんだんに登場する。松岡には、本居宣長の『古事記伝』と桑田佳祐を一緒にみる深い視点があり、宗教や「あはれ」「いき」を論じながら「歌」に結びつく著書が多い。その勘所が一冊に集められており、古代から現代までの「歌」の論考集とした。
 いわば弟子による師匠の著書の再編集。出典の松岡の著書が明記されていて、もっと知りたいと思ったら、その本にあたれる仕組みになっている。章立て、索引、デザインと、さすがの仕上がり。楽しく読めて心なごむ一冊となった。
(工作舎・1980円)
1944年生まれ。編集工学研究所所長、イシス編集学校校長。『遊読365冊』など。

◆もう1冊 

松岡正剛著『法然の編集力』(NHK出版)

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