<社説>原発訴訟 疑わしきは動かさず

2021年3月20日 07時23分
 水戸地裁は十八日、避難計画の実効性に重大な疑問があるとして茨城県の日本原子力発電東海第二原発の運転を差し止めた。「防災体制は極めて不十分」−。疑わしきは動かさず、という判断だ。 
 「実現可能な避難計画およびこれを実行し得る体制が整えられているというには、ほど遠い」と、水戸地裁。避難計画の不備を理由に司法が原発の運転差し止めを命じたのはこれが初めてだ。
 原発三十キロ圏内の自治体には、避難計画の策定が国から義務付けられている。だが、首都圏唯一、三十キロ圏内に百万人近い人口を抱える東海第二原発だけでなく、各原発の三十キロ圏内にある全国の自治体が、避難計画の策定に苦慮していると言っていい。「人口密集地帯の避難が容易ではないのは明らかだ」と断じた今回の判決は、これからの原発訴訟に、少なからず影響を及ぼすだろう。
 「脱原発弁護団全国連絡会」によると、原発の建設や運転、あるいは設置許可の是非をめぐる裁判は、3・11以降、約五十件が提起されている。このうち、原発に反対する住民側の訴えを認めた司法判断は、今回の東海第二原発を含め、計七件。昨年から今年にかけては、これで三件が相次いだ。
 3・11以前は、北陸電力志賀原発2号機の運転差し止め(二〇〇六年、金沢地裁)など、わずか二件だけだった。
 一九九二年の四国電力伊方原発訴訟で示された最高裁判断を踏襲し、「原発の安全性判断は、専門家に委ねるもの」という考え方が支配的だった司法の流れに、変化が生まれているようにも見える。
 一方、同日広島高裁は「地震や火山の噴火による具体的な危険がある」として、伊方原発3号機の運転を差し止めた昨年一月の仮処分を自ら取り消した。
 「原発の安全性に影響を及ぼすような大規模自然災害が発生する可能性は、高いとはいえない」というのだが、この判断には疑問が募る。
 「リスクは大げさに考える」。危機管理の要諦だ。いわんや原発の場合、いったん事故が起これば破局につながりかねない。それが福島第一原発事故の重い教訓ではなかったか。
 避難計画にしろ、地震の揺れや火山噴火の影響にしろ、破局につながるリスクがそこにある限り、原発は動かすべきではない。
 住民の安全最優先。「疑わしきは動かさず」とする大原則を司法は確立すべきである。

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