コスパが良い?千葉県知事選、驚きのパフォーマンスが相次いだ理由

2021年3月21日 20時01分
 過去最多の新人8人が争った千葉県知事選挙は21日、投開票が行われた。インターネット上で注目を集めたのは、既存政党の支援などを受けない「独立系」と呼ばれる候補者たちの戦いだ。ユーチューブやツイッターなどのSNSを駆使して、「コスパ良く」知名度を上げたい候補者も。一方で訴えの内容にクレームが殺到する候補も出るなど、新たな選挙戦のあり方が物議をかもしている。(デジタル編集部・三輪喜人)

東京ディズニーリゾートの前でパフォーマンスを披露する河合悠祐さん=18日、千葉県浦安市で

◆武器は「政見放送」

 「うわジョーカーじゃん」「写真とってもらおうよ」。18日夕、JR海浜幕張駅前で高校生たちが、イベント運営会社社長でユーチューバーの河合悠祐候補(40)=諸派=と一緒にスマホをかざしていた。ピエロのように顔を白く塗った河合さんはこの後、オリジナルの歌とダンスを披露。「SNSで拡散してください」と呼びかけた。
 政党の組織的な支援がない候補にとって、政見放送は貴重な機会。テレビではNHK総合と千葉テレビで流れた。河合さんは2種類作り、全く別の内容に仕上げた。
 最初に放送されたのはNHK。河合さんはトップバッターで、白塗りメークで登場。「千葉県全体をディズニーランドにする」と掲げ、九十九里浜をディズニーシーと呼ぶなどデートに来てもらえるような特色ある街づくりを提案した。

JR海浜幕張駅前で演説する河合さん=18日

 県内ではゴミを「星のかけら」に言い換えることや、「JR幕張駅を『幕張メッセここじゃないよ』駅にする」といった公約を発表し、まるでコントのよう。「奇声を発したり、服を脱いだりして目立つのは誰でもできる。ウケるように作り込んだネタをやったので、変な格好でも『いうても頭良いな』というところを見てほしい」。お笑い芸人の経験もある河合さんは、政見放送を「ネタ」と呼んだ。
 もくろみ通り放送後にはSNSやネットで話題をさらった。河合さんと写真を撮影した高校1年の男子生徒(16)は「政見放送をネットでみて、政策が頭にすっと入ってきた。ほかの候補も見たけど、伝わってこなかった」と話す。
 今回の政見放送では、東京都の小池百合子知事へのプロポーズ構想を明かすなど、驚くような主張や表現をする候補者が複数人いた。過激にも映る内容に拍車をかけている一因は、選挙が自分をPRする新たな手段として「コストパフォーマンスが高い」と考える人たちもいるからだ。

多彩な顔ぶれが立候補した千葉県知事選


 政見放送は原則として編集されず、そのまま放送される。その後、候補者は自分のユーチューブチャンネルに投稿し、ツイッターなどSNSで拡散する。河合さんでいえば、政見放送関連の動画だけで計10万回再生されている(21日午前10時現在)。再生回数に応じて広告収入が入り、フォロワーが増えれば今後の活動にもつながる。「炎上」させて熱烈な支持層に訴えかければ、寄付金集めにも役立つ。
 知事選挙の立候補に必要な供託金は300万円で、有効投票総数の10分の1を獲得できなければ没収される。しかし、テレビの放送枠などをひっくるめて広告費と考えれば安いというわけだ。河合さんは「数億円の宣伝効果があるのではないか。破格だ」とみる。

◆政治活動か、売名か

 好意的な反応の一方で、県の選挙管理委員会には各候補の政見放送についての苦情が相次いだ。事務局によると「税金を使って好き勝手にやらせていいのか」「県民として恥ずかしい」など50件ほどは寄せられているという。河合さんは「被選挙権があり、思想信条の自由があるので合法だ。いろんな意見があっていい。ネットでは好意的な意見ばかりだ」と意に介さない。
 「炎上」させて、フォロワーを増やし、有名人になるー。こうした過激なパフォーマンスに警鐘を鳴らすのは、諸派の政治団体代表として選挙戦を戦った後藤輝樹候補(38)だ。昨年の都知事選の政見放送では、ほぼ全裸で言論の自由を訴えた選挙界隈の有名人だ。
 後藤さんは今回の政見放送で、「ちなつさん」に公開プロポーズをして話題になった。「自分が言うのもなんですが、ふざけている人や売名目的の人は断固として否定する。増えてほしくない」と強調する。自身は、伝えたい主張をしっかりとちりばめているといい、「紙一重かもしれないが、大きく違う。不快だと思う人が増えれば、選挙や政見放送に規制が入るかもしれない。自分で自分の首を絞めることになる」と話す。

政見放送の傾向について警鐘を鳴らす後藤輝樹さん=19日、千葉県松戸市で

 河合さんにも売名ではないかという指摘が寄せられるという。「今回の選挙で、熊谷俊人さん以外は、事実上勝つのは難しい。未来を見据えた顔見せ。知名度を上げて何が悪いのか」と反論する。選挙運動最終日は、千葉ではなく、東京・JR渋谷駅前でライブパフォーマンスを繰り広げ、17日間の選挙戦を締めた。

◆批判殺到「ワクチン危険」

 さらに、政見放送よりも苦情が多かったのがポスターだった。諸派の政治団体代表、平塚正幸候補(39)は「コロナワクチンとマスク着用の危険性」を訴え、ポスターには「ワクチン危険」と名前よりも大きな文字で掲げた。
 「小学校の近くにあって子どもが目にする。不安を煽られる」「厳しく指導しないのか」などの100件を超す苦情や相談が県選管に届いた。
 寄せられた批判に平塚さんは「それはメディアに洗脳されているだけ。製薬企業と癒着した人たち、ワクチンの利権がある人たちがいるからだ」と主張。「逆張りをしたいわけじゃない。命を守りたいからだ。千葉県民に判断する材料を提供している」と強調する。

演説する平塚正幸さん=19日、JR柏駅で


 マスクについては、「イヤイヤ着けている人が実は多くて、本音ではみんな着けたくないし、ワクチンも打ちたくない。街頭での反応はいい」という。
 選挙戦終盤の19日夜はJR柏駅前で街頭演説し、帰宅途中に足を止めて耳を傾ける人も。支援者ら30名ほどが集まっていて、もちろんマスクはしていない。コロナを軽視する発言をしていたアメリカのトランプ前大統領の旗を持つ人も。平塚さんが「マスクは健康に悪い。マスクを外しましょう」と呼び掛けると、「そうだ!」と声が飛んだ。
 支援者はスマホを握り、ライブ配信や動画を撮影していた。少なくとも10台は確認できた。支持を広げるために、今やユーチューブなど動画サイトは欠かせない。SNSも演説の場所と時間を告知したり、寄付を呼び掛けたり、強力な選挙道具となっている。

平塚正幸さんの演説に集まった支持者ら=19日、JR柏駅で

 ただ、平塚さんは、ワクチン接種を呼び掛ける政府や世界保健機関(WHO)とは真逆の立場。平塚さんの政見放送の動画やユーチューブのアカウントは「利用規約に違反した」と判断され、次々と削除された。消されたアカウントは70を超すという。「だからといって主張をかえるわけではない。当然でしょう」と話す。
 県選管によると、スマホがそれほど普及していなかった10年前には、ポスターや政見放送の内容に苦情がくることはほとんどなかったという。担当者は「新時代に入った」と感じている。
 今年は都議選や衆院選を控える。「県民の税金を使った選挙が、1つの踏み台にされるのではないか」と選管関係者は話す。実際に都議選や今後の選挙を見据えた候補もいた。
 専修大の山田健太教授(言論法)は、憲法が保障する表現の自由が大前提とした上で、「ネット選挙が解禁され、どういう表現を認めるか」は一つの課題とみる。「政見放送はその場限りの放送が前提で、動画サイトで繰り返し見られることは想定していない。SNSなど新しいツールが登場した今、議論を求める声が出てくるかもしれない」と話している。

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