水中に漂うインクで「いつか消える命」表現 コロナ禍の米NYで共鳴のアート

2021年3月24日 14時00分

プリンターから水槽にインクを放つ作品を前に思いを語る野村在(ざい)さん=杉藤貴浩撮影

 米ニューヨーク市在住の日本人作家野村在さん(41)が、亡くなった人々の写真データを基に、プリンターからインクを水中に放つ芸術作品を展示している。阪神大震災の経験などを踏まえた重いテーマだが、新型コロナウイルス禍で多くの命を失った街で、共感を持って受け入れられている。 (ニューヨーク・杉藤貴浩、写真も)
 同市マンハッタンにあるワンルームほどのギャラリー。プリンターが作動する高い機械音が響くと、下に取り付けられた水槽に幾筋ものインクが漂い始めた。
 雨のようにも煙のようにも見えるが、基となった画像データは遺影。紙に印刷されていれば、亡くなった人の姿が浮かぶはずのものだ。作品用に市販のプリンターを改造し、水面にインクを吹き付けられるようにした。

プリンターから水槽にインクを放つ作品を前に思いを語る野村在(ざい)さん=杉藤貴浩撮影

 「命はいつか消えてしまうが、その存在は、はかなくても輝く」。水中に放たれたインクが時間とともに溶けゆく過程を表現した理由を、野村さんはそう語る。
 1995年、神戸市で過ごした中学3年のころ、阪神大震災で被災した。「揺れの後に外に出ると朝なのに南が明るい。火の手だった」。空から灰の降る光景が心に刻まれ「生と死やその間にあるもの」が創作の原点に。10年前の東日本大震災では現地でボランティアと作品制作を重ね、被災者と割り切れない思いを共有したという。
 2年前にニューヨークへ拠点を移しても、命の意味を問う作風は変えず、今回は芸術仲間たちから肉親の遺影5枚を提供してもらった。作品を見て感じてほしいとの思いから、被写体の人物像や亡くなった経緯について詳しくは明かさないが「コロナ禍を経験したニューヨークで展示できる意味は大きい」。作品には、こだまや反響を意味する「Echoes(エコーズ)」と名付けた。
 3月中旬の個展初日には、外に列ができるほどの人々が訪れた。芸術支援団体で働くスーザン・ハップグッドさんは「作者の震災の経験が、コロナで多くの死者を出した現在のニューヨークと共鳴しているように感じる。タイムリーな展示だ」と話した。
 個展は4月中旬まで。野村さんは「今後はコロナによる死を見つめる作品にも取り組みたい」と意欲を示している。

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