<炎上考>「ワンオペ育児」を美化…少子化の背景にある日本社会の空気 吉良智子

2021年3月25日 13時00分

パンパースの動画「キミにいちばんのこと」の一場面。ベビーカーを移動させるのに手を貸す通りすがりの男性

 2016年末、衛生用品メーカー「ユニ・チャーム」の主力おむつブランド「ムーニー」の広告動画が公開された。母親が育児のほとんどを担う「ワンオペ育児」への賛美だという批判を浴び、炎上した。
 動画では父親はチラリとしか映らず、新米ママが育児に孤軍奮闘する様子をカメラは追う。ぐずる赤ん坊を抱いて立ったまま片手でおにぎりをほおばる、泣きやまない子をあやしながら自分も泣き出す…。見ている方まで胸が苦しくなる。
 だがラストでは、育児の苦悩が喜びに変わる。赤ん坊がママの指を握り返すと、苦悩に満ちた母親の顔が笑顔の連続ショットに。「その時間が、いつか宝物になる」の文字が流れる。
 この直前の映像も興味深い。母親は赤ん坊を抱き草原に立つ。これは生命を生み出す「大地母神」のイメージと重なる。見上げるように撮影するアングルは、崇拝の念を表す。女性を自然と結びつけ、「母性」や「母なるものの偉大さ」をたたえる映像なのである。
 これが曲者くせものだ。日本は、「母親が正しく育児をしているか」と周囲が監視するような空気に満ちている。そんな社会で「母性」を賛美し、育児の苦悩を殊更に美化することは、「母親の自己犠牲は当然だ」というメッセージを放つからだ。
 これと好対照なのが、同じ年に公開されたアメリカのP&Gのおむつブランド「パンパース」の動画。最初に出てくるのは女性が子守唄を歌って赤ん坊をあやす場面だが、映像が進むにつれ、さまざまな人物が登場する。赤ん坊のオムツをかえる黒人男性、親戚の子の健康を考えて禁煙するアジア系男性、孫のために文字を勉強する黒人女性、ベビーカーを押す女性を助ける通りすがりの人…。多様な人々が育児に参加している姿が浮かび上がる。
 私が受け持つ授業では、2つの動画を視聴した後、学生にどちらの社会で育児をしたいかを聞く。ほぼ100%の学生が、後者を選択する。少子高齢化が止まらない日本社会を映し出しているようだ。

 きら・ともこ 美術史・ジェンダー史研究者

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