「復興五輪」というけれど…福島で聖火リレースタート、被災者の思い複雑

2021年3月25日 22時23分

南相馬市では騎馬武者が沿道で出迎える中、笑顔で走る聖火ランナーの室屋義秀さん=写真はいずれも福島県内

 東京五輪の聖火リレーが25日、始まった。初日のコースは、東日本大震災と原発事故で被災した福島県沿岸部。復興が遅れ、まだ誰も住めない地域がある。「復興五輪」の理念に複雑な思いを抱く被災者がいる中、ランナーは未来への願いを込めてトーチをつないだ。一方で、新型コロナウイルス禍での開催を不安視する声も根強い。(小川慎一、片山夏子)

JR双葉駅前で聖火ランナーを待つ、避難先から訪れた人ら

 「テレビで見ていたがれきもなくなっていた。何もない所もあったけど、福島が復興しているって伝えたかった」。富岡町の第1走者、中学1年の嶋田晃幸さん(12)は、走り終えて笑顔だった。
 東京電力福島第一原発がある大熊町で生まれ育ったが、家族で宮城県に避難して10年になる。「トーチはずっしりしていた。日本の1億人の聖火をつなぐ1人になれたことで、より重く感じた」

福島県富岡町の第一走者を務めた中学1年の嶋田晃幸さん(代表撮影)

 大熊町のリレーのコースは、避難指示が解除された西部の大川原地区。沿道では約300人が聖火を見守っていた。武内一司さん(67)もその1人。来月完成する近くの商業施設で、喫茶店を10年ぶりに再開する。
 町で1人で暮らし、家族は南相馬市にいる。「前の東京五輪の時はテレビで聖火見て興奮したけど、今回は実感わかねえ。若い人はいねえし、元の町には戻らねえ。復興、簡単じゃねえよな」
 同じく原発立地地の双葉町は、今も居住者がゼロのままだ。周辺で建物の解体が進むJR双葉駅前に、避難先から住民ら約500人が集まっていた。太鼓グループの演奏を機に第1走者が走りだすと、「がんばれー」と声援が飛んだ。
 自宅が原発から5キロの中里真江さん(69)は、夫といわき市に住む。家は放射線量が高く、避難解除のめどはたたない。

復興が進まない双葉町で、双葉駅(右側)前の広場だけで行われた聖火リレー

 「孫娘が第1走者で、コロナ禍で走っていいのか悩んでいた。家は床が沈んで、イノシシが入りめちゃくちゃ。復興は考えられない。複雑ですね」。孫娘の走る姿を見ると、「うれしい。涙ぽろぽろです」と目を潤ませた。
 帰還困難区域が残る浪江町では、町職員渡辺聖子さん(45)が走った。10年前、津波で多くの友人や知人を失った。自宅は流されたが、両親は何とか助かった。

浪江町の漁業関係者が大漁旗で出迎える中を駆け抜ける聖火ランナー

 「帰りたくても町に帰れない状況を、世界に知ってもらう良い機会。避難先から来てくれた懐かしい顔が、沿道にたくさんあった」。にこやかな渡辺さんが続けた言葉には、力がこもっていた。
 「人もいない状態で何が復興だと思うけど、小さな光を見つけていきたい」

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