<くるみのおうち> (1)父の決意 20歳になった直樹へ 「どんな人にも明るい未来」信じて

2021年3月26日 06時55分

太田修嗣さん(左)と長男の直樹さん=中原区で(太田さん提供)

 まずは二十歳の誕生日、本当におめでとう。幼いころから海外への引っ越し、それに両親の離婚、父との二人暮らし。私を不安そうに見上げたあなたの顔が、今も忘れられません。
 父さんは、あなたのように自閉症や知的障害のある人のことをほとんど知らないまま、大人になりました。そうした人たちと触れ合った経験がほとんどなかったからです。自分が「こうだろう」と思い込んでいたことも、あなたにとっては「そうではない」。そのたびに戸惑い、気づき、教えられる場面が数多くありました。
 実は、二十年前の父さんは、バリバリ働いて、世界に通用するビジネスマンになるのが夢でした。念願の海外赴任が実現し、さあ夢に向かってまっしぐら−。直樹が自閉症と診断されたのは、そんな時でした。
 会社で働くのはやりがいがあるし、今も一応ビジネスマンのつもり。管理職にもなりました。けれども、私の人生で本当に大切なのは、それだけじゃない。何が何でも、成し遂げたい目標ができたんです。
 それは、直樹のように、障害のある人がもっと生きやすい社会を創ること。この二十年、あなたと暮らしを共にする中で見つけたライフワークであり、父さんの決意でもあります。生き抜くという表現が大げさではないくらいに、生きづらさもあなたと分かち合ってきましたから。
 「くるみ−来未」というNPO法人を立ち上げて、仲間づくりに頑張っているのも、「くるみのおうち」というみんなの居場所を作ったのも、すべてその一歩です。「どんな人にも明るい未来がきっと来る!」。そう強く信じています。
 時にはおやじとして、言うべきことは言わなければなりません。でも、変わるべきは「あなた」ではなく、むしろ「社会」の方なのではないか、と思うことも本当にたくさんあります。そんな視点を持てたのは、あなたのおかげ。あなたの存在が父さんを、仲間を、地域を、社会を、より豊かなものにしているのです。
 直樹は、父さんにとって誇るべき息子であり、一番の友人であり、大切な仲間です。この先もいろいろあると思うけれど、「あなたらしさ」を大切に生き抜いてください。親の期待通りに生きなくてもいいんだからね。父さんも父さんらしく、やりたいことを頑張ります。これからもよろしく!
  父 太田修嗣
      ◇
 川崎市中原区にあった築五十年の空き家をリフォームし、二〇二〇年に開所した地域交流の場「くるみのおうち」。多様な「自分らしさ」を包み込んで、出会い、つながり、認め合う居場所にしたいと願う。その軌跡をたどる。(次回は四月四日に掲載予定)
<太田修嗣(おおた・しゅうじ)> 兵庫県西宮市出身、45歳。キヤノン勤務。長男直樹さんに知的障害・自閉症があり、親子ともに生きづらさを感じてきた経験から、当事者・家族を支援するNPO法人を2014年設立。詳しくは「くるみ−来未」のFacebookページへ。
 ◇ご意見・ご感想は、川崎支局(電子メールkawasaki@tokyo-np.co.jp)へ。

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