電通の「働き方改革」波紋 中高年社員の早期退職募り、4月から個人事業主に 

2021年3月27日 06時00分
 電通が中高年社員の「セカンドキャリア」を支援するとして4月から本格的に始まる制度が議論を呼んでいる。40歳以上の希望者を早期退職させ個人事業主にして仕事を発注するが、個人事業主は労働法で守られずさまざまなリスクを負う。コロナ禍でも苦境に陥っている個人事業主は多く、こうした手法が広がれば安全網のない働き手が増える懸念がある。(久原穏)

電通社員の個人事業主化の仕組み

 「50歳を超えると活躍の場がないまま会社に残る人が少なくない。自立したプロを後押しする道を考えた」。電通元管理職でこの制度を発案、自身も早期退職した野沢友宏氏は話す。

◆10年間業務委託、OB「稼ぎ放題」

 早期退職後、希望者は電通が設立した子会社と10年間の業務委託契約を結ぶ。「仕事は電通の業務にとどまらず、個人が見つけてきたものも行う」(電通)。
 通常の個人事業主と異なり、成果報酬だけでなく、固定報酬部分もある。ある電通OBは「応募した知人は50歳で割増退職金8000万円を手にした。固定報酬の『最低保障』もあり、仕事は自動的に入る。自分で仕事を増やせば稼ぎたい放題」とうらやむ。

◆収入保証、安定経営が前提

 しかし、社会保険労務士の川部紀子氏は懐疑的だ。電通は一定収入を保証し続けるというが、あくまで安定経営が続くことが前提。川部氏は「業績が悪化したり、健康を損なった場合、前提が崩れる」という。
 その場合、個人事業主は報酬低下などの影響をもろにかぶる懸念がある。雇用保険、労災保険もない上、厚生年金からも外れるため、川部氏は「社員であり続けた場合の年金など社会保険も含めた生涯年収と個人事業主になった場合の収入見通しを照らし合わせる必要がある」と指摘する。

◆働きすぎの制限なし

 さらに労働時間の上限規制も適用外。健康機器中堅のタニタは2017年から一部社員の個人事業主化を始めたが「自由な働き方の半面、働きすぎが課題との声はある」(同社)。
 電通では15年に新入社員の女性が過労自殺する事件が起きており、日本労働弁護団の嶋﨑量しまさきちから弁護士はこう警告する。「働きすぎを生みやすい個人事業主化を電通が進めるのは社会的責任を放棄するに等しい」

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