血縁を超え築く関係 『偶然の家族』 作家・落合恵子さん(76)

2021年3月28日 07時00分

神ノ川智早撮影

 人に命があるように、小説にも命がある。ベストセラーであっても多くは時代にのみこまれ、目にする機会が消えてゆく。だが、時代に求められ、息を吹き返す作品がある。半世紀近く執筆活動を続けてきた落合さんが、三十一年前に世に送り出した本作がそれだ。
 東京・中野にある古びた洋館アパート「榠〓(かりん)荘」を舞台に繰り広げられる男女七人の群像劇だが、核となるのは夏彦(58)と平祐(へいすけ)(66)というゲイのカップル。そして、離婚したシングルマザーの子、滋(6つ)。皆、当時の「標準家庭」からは外れた顔ぶれだ。
 一九九〇年の刊行時、信頼を寄せるベテランの文芸編集者に「なぜ、あえてゲイを書く必要があるのだ」と強く問い詰められた。それまでに五回、直木賞候補に名を連ねていた落合さんの今後に響くと懸念したのかもしれない。「なぜ、と問われても、私が書きたいのは社会の枠組みから外れがちな人や外された人、声の小さい人たちだった」と振り返る。自身が「婚外子」という立場で生まれてきたことが無縁ではない。
 母一人、娘一人の環境で愛情深く育てられた。だが、神経症を病む母と向き合いながら、子である重さに押しつぶされそうになったとき「家族って脱げないの?」と思ったのが、血縁によらない家族を新たにつくりあげる物語を構想するきっかけだった。
 榠〓荘の住人たちはそれぞれに家族ときしみ合い、そこを飛び出してここに集った。「家族の条件は血縁だけじゃない。美しいものに共感したり励まし合ったりできる関係も家族になり得るんじゃないか。出会った偶然を必然に変えるプロセスこそが家族をつくるんじゃないか」。だからこそ、皆で料理を作ったり、食卓を囲んだり、庭の草花や昆虫をいとおしんだり…といった日常のささいな光景が幾重にも丁寧に描かれる。
 一方で、痛みを知る人間同士だからこそ、たとえ六歳の子どもであっても、相手を尊重することを忘れない。「脱げてしまう間柄だからこそ大事にしたい家族を描きたかった」。ひとり世帯が増えて、人とのつながりが希薄になりがちな今こそ読んでほしい作品だと考えた編集者の提案に応えて、復刊が実現した。
 三十年余を経て住人たちがどうなったかという現在の物語も加筆した。社会がどう変わり、どう変わらなかったのかを測る一冊にもなっている。東京新聞・一五四〇円。 (矢島智子)
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