なぜ戦争をえがくのか 戦争を知らない表現者たちの歴史実践 大川史織編著

2021年3月28日 07時00分

◆記憶の継承 対話を重ねた軌跡
[評]安田菜津紀(フォトジャーナリスト)

 「写真家がなぜ政治に発言をするのか?」と時折聞かれることがある。振り返れば少なからず芸術が、“プロパガンダ”を流布し戦争を助長する「道具」として利用されてきた歴史がある。たとえ直接的にそれに関わらなかったとしても、抗(あらが)わない、沈黙する、ということ自体が、ある種の戦争への加担なのかもしれない。だからこそ表現者がもっと、活発に発信してもいいのでは、と感じている。
 この本は「戦争」を表現する十三人と、著者である映画監督の大川史織さんが対話を重ねた軌跡だ。絵画や映像、音楽や彫刻と、その表現の手段も多岐にわたっている。ただ、それぞれの作品は、敢(あ)えてこの本には掲載しなかったのだという。著者との対話の中で、「なぜ」「何を」「どのように」表現するのかを、各人が言語化していくのだ。そして、マーシャル諸島やベトナム、韓国など、著者自身が現地で見聞きした戦争の姿も、そこに重なっていく。
 とりわけ印象的だったのは、戦前・戦中の写真のカラー化と記憶の継承に取り組む、東京大学の渡邉英徳さんと、大川さんが出会った当時はまだ高校生だった庭田杏珠さんの語りだった。庭田さんがシロツメクサだと思っていた写真の中の花について、原爆で家族を亡くした高橋久さんは「これはタンポポだった」と語る。こうして写真を通して蘇る「記憶の色」は、SNSなどで大きな反響を呼んできたという。戦争を直接体験した方々が高齢化し、語れなくなっていく中で、色彩とともにそれぞれの歩みが受け継がれていくのだ。
 また細かな部分ではあるが興味深かったのが、取材を受けた表現者たちのプロフィールと共に、三つの質問に対するそれぞれの答えが記されている末尾のページだ。その三つ目の質問が「どのように生きたいか」ではなく、「どのように死にたいか」なのだ。戦争が、一人の力では抗うことのできない理不尽な死だとすれば、「どのように死にたいか」を思い描き、選べること自体が、その戦争の対極を物語っているのではないだろうか。
(みずき書林・2200円)
1988年生まれ。映画監督。2018年、ドキュメンタリー映画『タリナイ』で初監督。

◆もう1冊

大川史織編著『マーシャル、父の戦場』(みずき書林)

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