この国の「公共」はどこへゆく 寺脇研、前川喜平、吉原毅(つよし)著

2021年3月28日 07時00分

◆官民覆うやる気奪う原理
[評]森永卓郎(経済アナリスト)

 本書は、文部科学事務次官を務めた前川喜平氏、ゆとり教育を推進した寺脇研氏という二人の元文部科学官僚に原発ゼロ宣言をした城南信用金庫元理事長の吉原毅氏を加えた三人の鼎談集だ。
 前川氏が次官時代に出会い系バーに通っていたことの釈明会見で「貧困女性の調査に出かけていた」と話した時、私は半信半疑だった。ただ、本書を読んでそれは真実だったと確信した。本書で官僚としてとても言いにくいことも、正直に語っているからだ。例えば冒頭で、中央官庁ではカラ出張で裏金を作り、飲み食いをしていたと述べている。官僚経験者なら誰でも知っている事実だが、それを公言する官僚はあまりいない。また寺脇氏も、知人女性が複雑な家庭から自立するための資金を二十万円渡した経験を語っている。前川氏の二の舞になりかねない発言だが、あえて事実を語っているのだ。
 鼎談のなかで、私の心に一番響いたのは、「昔の官僚で出世を目指す人はほとんどいなかった」という話だ。私自身の経済企画庁での勤務経験でも、それは事実だ。私に公僕としての崇高な矜持(きょうじ)があった訳ではない。夜中まで同僚と天下国家を論じ、その議論の通りに日本丸が動いていくのが、楽しくて仕方がなかったからだ。
 そうした官僚のやる気を奪ったのが、官邸主導だった。官邸の命令通りに仕事をするしかないなら、官邸に忖度(そんたく)して、高い給与や天下りポストを得たほうが有利だ。官僚の行動原理が公から私に変わった。それがいまの日本の行き詰まりの原因になっている。
 二人の元官僚の対談だけでも十分面白いのだが、本書を一段上のレベルに引き上げているのが、吉原氏の存在だ。吉原氏は公が失われた原因を、新自由主義とその背後にいる国際金融資本だと喝破する。公の心を失ったのは官僚だけではない。民間も同じなのだ。
 新自由主義の下では、すべてを弱肉強食の市場が決める。その過程でコミュニティが崩壊し、富も仕事の楽しさも、巨大資本に奪われていくのだ。
 日本社会の在り方を根底から問い直す好著だ。
(花伝社・1870円)
寺脇 1952年生まれ。
前川 1955年生まれ。
吉原 1955年生まれ。

◆もう1冊

吉原毅著『原発ゼロで日本経済は再生する』(角川oneテーマ21)

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