「男女不平等」の国で

2021年3月29日 07時33分
 森喜朗元首相の女性蔑視発言が波紋を広げた。男女雇用機会均等法の施行から三十五年。その後も法律や制度は整備されてきた。しかし、今なお日本は男女不平等の国だ。なぜ、女性活躍は実現しないのか。

<日本社会の男女不平等> 厚生労働省の雇用均等基本調査(2019年度版)によると、企業の管理職に占める女性の比率は、部長相当職が6・9%、課長相当職10・9%、係長相当職17・1%。政治の世界でも格差は大きく、衆院議員の女性比率は9・9%にとどまる。男女格差の度合いを示す世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数(19年発表分・上位ほど格差が小さい)は、世界153カ国中、日本は121位。分野別順位は政治が144位、経済は115位。

◆多様な視点で広がり ポーラ社長・及川美紀さん

 一九二九年の創業時、従業員は全員男性でした。八年後、京都の営業所で販売員募集の看板を見て入ってきた女性が言いました。「女やったらあきませんか」。断ることもできたはずです。でも、男性たちは受け入れました。女性に可能性を感じたからでしょう。それが弊社のDNAになりました。
 現在は、管理職の30%を女性が占めています。女性管理職が少ない会社は、労働力として女性を活用してはいても、本当に女性が活躍する組織とは言えません。弊社は、二〇二五年ごろまでに管理職の女性比率を50%に近づけたいと考えています。総合職社員の男女比は現在半々ですから、育成していけば管理職も同等になると思います。
 ただ、男女比という数字は、実は目的ではありません。異質なものを取り入れることによって、多様な視点から本質的な議論を深める。それが目標です。そういう議論を通して新しい思考や思想も生まれます。同質性が高い組織に慣れた人には居心地が悪いでしょう。でも、これからの時代は、違和感を受け入れてこそ新たな可能性が広がります。
 ジェンダー平等というとき、重要なのは機会の平等です。女性には今まで、仕事に限らず、社会の枠組みや家庭環境などの壁がありました。壁を取り除き、実力を発揮できる組織にする必要があります。無意識的な偏見により、目にとまらない女性がいます。彼女たちが主体的選択をできないのは、もったいないことです。
 これからの組織に求められるのは、チームパフォーマンスの高さです。一人のスーパーマンをつくるのではなく、いかにチームの力を上げていくか。異質な人が集まって、それぞれが得意な分野で力を発揮していく方が、強いチームになれます。
 私は、就職活動でポーラを訪問した時、大学の先輩から「男女に関係なく働いている」と聞きました。職場では四十代、五十代の女性も働いていました。ばりばりのキャリアウーマンというタイプではなく、普通の女性たちが頑張っているように見えました。
 私も普通の女性です。結婚、出産もして、一生懸命働いていたら社長になりました。女性にも可能性があり、道は開かれている。そういう社会であってほしいと思います。 (聞き手・越智俊至)

<おいかわ・みき> 1969年、宮城県生まれ。東京女子大卒。91年、ポーラ化粧品本舗(現ポーラ)入社。商品企画部長、執行役員、取締役などを経て2020年1月から現職。同社初の女性社長。

◆偏見 学び直して前進 「arca」CEO・辻愛沙子さん

 スイスのシンクタンクが二〇一九年、各国の男女格差の度合いを示す「ジェンダーギャップ指数」を発表し、日本が百二十一位になったことは衝撃を持って受け止められました。
 さらに衝撃だったのは前年に明らかになった医学部入試での女性差別です。女性が社会に出ると見えない障壁があるといわれますが、せめて教育はフェアだと思っていました。でも、入り口から差別があったのです。
 目に見えるデータによる指数の低さは問題ですが、入試差別のように、見える化されていないステレオタイプ(固定観念)やバイアス(偏見)がたくさんあることもまた深刻です。
 森(喜朗)さんの発言はまさにそれ。発言自体もさることながら、あの考え方が当たり前に根付いている社会であるほうが問題です。それこそ、おくるみの色から政治経済まで。ここを直せば変わるという簡単な問題ではなく、すべてが地続きで巨大なモンスターのようです。
 議員や会社役員などの要職における女性の割合をあらかじめ決めて数を増やそうというクオータ制も、実際の変化が伴って初めて意味を持ちます。数字を掲げるだけでは意味がない。そのためには土壌づくりが大切。いきなり議員や役員になれと言っても難しい。その前の部長、課長など各ポストでの男女比率がそれぞれ上がっていくように社内教育の見直しや人事のバイアスチェックなど、ワンステップずつ対策を講じるべきです。
 意識改革も必要。まず現状が偏っていることを知ってもらう。そして、過去に学んだ知識や価値観を意識的に捨て、学び直すアンラーニング(学びほぐし)に取り組む。「男性は数学が得意」「女性は感情的」などの思い込みからの脱却です。
 厳しいことを言いましたが、少しずつ変わってきたとも感じています。選択的夫婦別姓はいまだ実現せずですが、表舞台で議論できるようにはなった。現状を悲観してルサンチマン(恨み)に陥るのではなく、それぞれが変えていく意識を持てば変わるということを意識したい。
 そのとき大事なのは、完璧を目指さないこと。間違いを犯した人が変化の道を歩んでいるなら、過去のことでやじるのではなく黙って見守りたい。誰の中にも無自覚な偏見はある。それを自覚してそれぞれが学び続け、前進する社会であってほしいのです。 (聞き手・大森雅弥)

<つじ・あさこ> 1995年、東京都生まれ。社会派クリエーティブを掲げ、広告から商品プロデュースまで領域を問わず手がける。2019年秋から日本テレビ系の「news zero」に出演中。

◆性別役割分業 改革を 日本女子大人間社会学部教授・大沢真知子さん

 森喜朗さんの発言から見えてくるものは女性に対する偏見だけでなく、日本社会の同質的合意形成という問題が浮き彫りになったことだと思います。
 上の人が決めたことを追認する。それが一般的な日本の会議です。ここに女性や外国人が入ってくると、いろいろな意見が出て、時間はかかるかもしれません。しかし、今までとは違う新しい視点で議論することによって、より良い結論が得られます。それがダイバーシティー(多様性)の利点です。
 日本の企業では、女性が能力を十分に発揮できず、活躍できていません。その原因の一つは会社の仕事の与え方や人材育成の仕組みにあります。高学歴の女性で会社を辞めた人にアンケートをしたところ、仕事に対する不満や仕事に希望が持てないなど、仕事上の理由が上位にきました。ところが、会社は女性は結婚や出産で離職すると思い込んでいて「女性には期待できない」としか思わず、機会を与えていないのです。
 能力のある女性ほど「この会社ではキャリアを積めない」と思うと、早い段階で辞めてしまいます。有能な人材の流出は、会社にとってもマイナスです。女性を優遇しろということではありません。男女平等に機会と希望を与えるべきです。
 一九九〇年代からサービス経済化が進展し、女性の社会進出が進みました。それに合わせて共働き社会へと価値転換を図る必要があったにもかかわらず、日本はモノづくり中心の男性を稼ぎ主とする価値観から転換できませんでした。同じように、IT革命によって、若者の力が必要になっているのに、年功序列の組織のままで、力が十分に生かせていません。
 女性が活躍するようになると晩婚化や非婚化につながり、少子化がさらに進むと考える人がいますが、それは誤解です。就職氷河期世代以降は共働きが普通になり、稼げる女性の方が結婚確率が高く、出産もしています。共働きをしやすい環境をどう整えるか。それが少子化対策の鍵を握ります。
 子育てや介護は女性がするという考え方は時代遅れです。旧来の性別役割分業を前提とした国の政策や企業の人事管理制度は、改革を迫られています。森発言を、そういうメッセージと受け止め、多様性をキーワードに誰もが活躍できる社会をつくる契機にすべきだと思います。 (聞き手・越智俊至)

<おおさわ・まちこ> 1952年、東京都生まれ。専門は労働経済学。日本女子大現代女性キャリア研究所長。『女性はなぜ活躍できないのか』『21世紀の女性と仕事』など著書多数。

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