コロナ禍で休息の場を失った…深刻化するニューヨークの「ホームレスの居場所」問題

2021年3月29日 18時00分
 新型コロナウイルスの感染拡大から1年になる米東部ニューヨーク市で、「ホームレスの居場所」があらためて社会問題化している。商店や交通機関の営業縮小の余波で休息の場を失った一方、行政がホテルの空き部屋に用意したシェルター(一時避難施設)では周辺住民とのあつれきも。当事者の声と課題を追った。 (ニューヨーク・杉藤貴浩、写真も)

◆地下鉄の深夜運行取りやめで歩道に

NY市中心部の歩道で「深夜の地下鉄で休めなくなった」と話すテリー・ホルトさん

 人通りの少ないニューヨーク中心街の歩道。先月の昼下がり、募金箱代わりの紙コップを前に、テリー・ホルトさん(35)が眠たげにつぶやいた。「コロナ前は地下鉄の車内で寝ることができた。それが今では外。底冷えがするよ」
 ホームレスになったのは2年前。コロナの影響で仕事や住む場所を失ったわけではない。ただ、わずか2.75ドル(約300円)の運賃で寒さをしのげた地下鉄が深夜運行を停止したのは痛かったという。詳しい身の上は明かさなかったが、「ハワイにいる家族の元に戻りたい」と繰り返した。

◆カフェや図書館の閉鎖で衛生状態が悪化

 慈善団体の調査では、市内のホームレスは少なくとも約5万5000人。「家賃未払い者の立ち退きを行政が猶予していることもあり、特に増えてはいない。だが、彼らの衛生状態は目に見えて悪くなった」。市内でシェルターを運営するジェームズ・ワイナンスさん(42)は言う。
 真夜中の地下鉄に加え、洗面所を使うことのできたカフェや図書館も軒並み閉鎖され、事実上のシャワーと洗濯の場所が消えたからだ。「感染対策で『ステイホーム』と繰り返しても、それができない人たちがたくさんいる」

◆感染恐れ…友人が泊めてくれず シェルターを敬遠する人も

NY市中心部の地下鉄出入り口付近でシェルターでのコロナ感染への不安を訴えるリー・ダムロンさん

 コロナは、ホームレスの人間関係にも影を落としている。日雇い仕事でアパートを借りるほどの収入がないというコンゴ出身の男性(19)は「友人らは感染を恐れて部屋に泊めてくれなくなった」とため息をついた。今は各地のシェルターを渡り歩いているという。
 「シェルターはありがたいが、そこでコロナに感染するかもしれないと思うと、足が遠のいてしまう」。時折、下から暖かい風が上ってくる地下鉄の出入り付近でリー・ダムロンさん(47)は言った。中西部ウィスコンシン州で勤務していた工場が4年前に閉鎖され、ニューヨークでホームレスに。「雇用主は住所がない人間を雇いたがらない。本当はシェルターを足場にアパートに移り、仕事を見つけたいんだが…」

◆行政の対策に住民からは苦情も

 行政も、コロナの影響で増加したホテルの空室を感染対策に配慮したホームレスのシェルターに転用するなど対策を取ってきた。ただ、集まったホームレスには薬物やアルコールの依存者、道路をトイレ代わりにする人々もおり、周辺住民から閉鎖や移転を求める訴えが相次いでいる。
 ワイナンスさんは運営するシェルターにシャワーを設置し、就業継続のために仕事のできるスペースを確保するなどの改善を進めているが、今後に向けての悩みは深い。「行政による立ち退き猶予期限は5月まで。その後、ホームレスが激増したときに、問題はますます深刻になるだろう」

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