「地域のためならと始めたが…」 原発事故10年、経営難に直面する福祉施設や病院が続々 求められる地域全体の計画

2021年3月31日 06時00分
 東京電力福島第一原発事故から10年、住民が戻らない被災地で、福祉施設や医療機関が経営難に直面している。生活基盤が揺らぐのを防ごうと、自治体が支援に動くが、関係者は「各自治体で考えるのではなく、広域での計画が必要だ」と指摘する。 (片山夏子)

特別養護老人ホーム「花ぶさ苑」で、町に譲渡されることを職員らに説明する高野己保理事長(中央奥)と遠藤智町長(右から2番目)=福島県広野町で

◆個人資産で1億円の穴埋めも…限界

 「一民間施設の努力では太刀打ちできなかった」。福島第一原発から22キロ、福島県広野町の唯一の特別養護老人ホーム「花ぶさ苑」の高野己保理事長(53)は悔しさをぶつけた。経営悪化で苑を町へ譲渡し、4月から大手民間グループが町から運営を委託される。
 2010年4月に開所。苑は原発事故後も避難せずに患者の治療を続けた高野病院に隣接する。「病院長だった父が町から依頼され地域のためならと始めた」と高野さん。町の避難指示後に休業するが、12年4月に入所者15人、スタッフ12人と震災前の半数以下で再開した。
 定員は40床。経営を安定させるため増床を目指し、町に相談したが、実現せず、赤字が続いた。病院や個人資産から約1億円を穴埋めしたが、限界だった。
 事業をやめれば、国や町の補助金3億円超の返還が必要になる。高野さんは病院との共倒れを避けるため、苦渋の決断で町への事業譲渡を決めた。建物は町に無償で譲り、土地や備品は売却したが、開所時の借入金など数千万円の負担が残った。

経営難で広野町に譲渡される特別養護老人ホーム「花ぶさ苑」=福島県広野町で

◆介護職の人材不足は深刻

 「花ぶさ苑のことは、人ごとではない」。楢葉町の特養ホーム「リリー園」の玉根幸恵施設長(59)は厳しい表情で言った。
 リリー園は避難指示解除後の16年春、定員80床の2割強の入所者19人で再開した。介護職員の不足から、今も定員の7割に当たる56床までしか受け入れられない。
 事故前、職員の大半は地元に住んでいたが、今は車で片道1時間超のいわき市から通う人が多く、県外の人も。交通費がかさみ、園の負担は増した。
 福島の被災地での人材確保は厳しい。津波と原発事故で被災した自治体を含む相双地区の20年度(2月まで)の有効求人倍率は3・31。福島県全体の平均3・22を上回る。

◆高まる福祉、医療の需要

 原発事故の被災地では高齢化が進み、福祉、医療の需要が高まっている。
 富岡町は16年に新設した診療所の所長に、震災で休止した地元の今村病院の院長を迎え、昨秋、同病院の医療法人に診療所を無償貸与した。石沢弘幸事務局長(63)は「町が世話になったからと無償にしてくれた。(花ぶさ苑のある)広野町は、地域医療と福祉に長年貢献してきた事業者を支援できなかったのか」と憤る。
 一方で富岡町には来春、公設民営の特別養護老人ホームができる。隣接する楢葉町のリリー園の玉根さんは「少ない人材や利用者の取り合いにならなければいいが…」と懸念する。
 災害時の医療支援を担う国立病院機構災害医療センターの小早川義貴医師は「個人病院の頑張りで、乗り越えられるほど状況は甘くない。新設せず、既存の民間施設を利用するなど、機能を維持するために地域全体で医療や福祉計画を立てるべきだ」と訴えた。

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