私の「神本」100人分 世田谷区のマイクロ本屋さん 心つながる場に

2021年4月1日 07時02分

本棚にはさまざまなジャンルの書籍が並ぶ(魚眼レンズ使用)

 東急世田谷線・松陰神社前駅の近くに、百個の箱型本棚を本を売りたい人に貸し出す「100人の本屋さん」が二月、オープンした。棚主は読み終わった本や自著、自分の人生の「神本」を持ち寄り、値段をつける。ユニークなマイクロ本屋さんをのぞいた。
 駅から北に徒歩五十歩。ビルの二階、広さ約百三十平方メートルの店内には、一マスが三十センチ四方の本棚がずらり。ヨガと料理の本を並べた健康志向の棚もあれば、日本画、科学からキューバの革命家チェ・ゲバラの本まで「自分の好きなもの」を自由に並べたであろう棚もある。仕掛け人で、店主の吉沢卓さん(46)は「自分の神本を推したくて、わざわざ新刊を買って安く売る人もいるんですよ」と紹介する。
 棚一つの賃料は月額三千八百五十円。本の値段は棚主が決めるが、一冊売れるごとに、手数料百円が吉沢さんに入る。吉祥寺(武蔵野市)の「ブックマンション」を参考に、自己資金と昨年十一月に始めたクラウドファンディングで得た約百五十万円をもとに開業した。今の棚主は約四十人。鉄道会社の役員、大学教授、地元のソフトウエア会社で働く会社員にキッチンカーの店主と多彩な人たちが「出店」している。

世田谷区のビルの2階に「100人の本屋さん」はある

 本屋さん誕生のきっかけは二〇一九年五月、親族が所持するこのビルから歯科医院が閉業し、広いスペースが空いたことだ。「有効活用したい」と考えていた吉沢さん。昨年二月、知人が吉祥寺のブックマンションの棚主だと知り、実際に見に行くと「それぞれの棚から放たれる知見やセンス、エネルギーに強く引かれた」。
 棚主一人一人が、本棚で発信する自分の世界。「地域では一住民だけど、本を愛する人やカメラマン、全国にネットワークを持つ会社員など、実はすごい人がたくさんいる。本屋に足を運べば交流が生まれる。世田谷にあふれる知的資源が、地域で新しい動きを生むはずです」と可能性を感じている。
 本棚を通じて知り合った人同士が、新しい取り組みをスムーズに進められるよう、「コワーキングスペース」や「イベントスペース」も併設。飲食の持ち込みも可能で、近くのおしゃれなコーヒースタンドで飲み物やお菓子を買い、気軽に立ち寄れるようにした。

店主の吉沢卓さん

 吉沢さんは「まずは棚主を百人まで集める。その上で、人のネットワークが広がる機会と場所を提供したい」と話した。
 閲覧のみもOK。営業時間は正午〜午後五時。月木が定休日だが、四月一日は営業。問い合わせは本屋さん=電070(8438)2636=へ。

◆直井昌士さん(59)の本棚

 世田谷区のソフトウエア会社勤務。敬愛するオーストリアの哲学者イワン・イリイチの書籍を購入し、三百円引きで販売している。「利益は関係ない。ただ読んでほしいだけ」。オープンして一カ月半でなんとイリイチの本が二冊売れた。「じわじわうれしかったです。今年現在、日本一、イリイチの本が売れた本棚だと思っています」と得意げに笑った。

◆松崎亨さん(47)の本棚

 元ラーメン店「八蔵」の店主で、現在はキッチンカーに乗り、クレープを売る。月に一度、読書会「八蔵本の会」を開催。シェークスピアの「ヴェニスの商人」や魯迅の「阿Q正伝」など、会で読んだ本約三十冊を並べている。松崎さんは「読書会を知ってもらえるきっかけにもなる」と笑顔。前回の読書会は、店内のイベントスペースで、対面とズームで開催した。
 文・山下葉月/写真・内山田正夫、山下葉月
 ◆紙面へのご意見、ご要望は「t-hatsu@tokyo-np.co.jp」へ。

関連キーワード

PR情報

TOKYO発の新着

記事一覧