<新かぶき彩時記>悲しい伝説をアレンジ 「桜姫東文章」の世界

2021年4月2日 07時23分
 さらわれた我が子を探してさまよう物狂いの母親と、あっけらかんと堕落する自由奔放なお姫様。一見無関係な両者が繋(つな)がっているのが「桜姫東文章」です。
 吉田家の息女・桜姫は自分を襲って妊娠させた無頼漢・権助に惚(ほ)れこみ屋敷を出奔。遊女に転落しながらもたくましく生き抜くという物語。作者は「四谷怪談」で知られる鶴屋南北で、複数の異なる世界観や伝説を作品にからませる「ないまぜ」の手法の名手です。
 その一つが「梅若伝説」。人買いにさらわれた我が子・梅若丸を探しに京から隅田川にやってきた吉田家の妻女が、子の死を知って嘆き悲しむというもので、謡曲「隅田川」や同名の舞踊劇の題材となりました。一連の作品は「隅田川もの」と呼ばれます。
 それがよくわかるのが三囲(みめぐり)土手の場。落ちぶれさまよう桜姫と、姫を慕う破戒僧・清玄が行き会うというもの。小雨の降る闇夜に浮かびあがる色あせた振り袖。姫の産んだ赤子を抱き、彼女の名を呼ぶ清玄。互いにそれと知らず離れて行く二人。退廃美と詩情あふれる場面ですが、姫が隅田川をさまようのも子どもがからむのも梅若伝説の反映で、南北のアレンジが冴(さ)えます。ちなみに権助の正体は「信夫の惣太」といい、梅若丸を誘拐した人買いの名。権助に殺された姫の弟の名が梅若となっています。 (イラストレーター・辻和子)

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