高齢者、障害者ら「ワクチン難民」を救え NYの街を薬剤師走る 地域の公民館などに「出張」

2021年4月2日 11時59分

3月24日、米ニューヨークの公民館で新型コロナワクチンを注射するアンバー・ケルスカーさん(左)とマーガレット・ラリバティーさん(右)

 接種したくてもできない方、お近くに行きます―。新型コロナワクチンが徐々に広がる米ニューヨークで、薬剤師アンバー・ケルスカーさん(28)が、公民館などを借りた「出張接種」を重ねている。利用するのは、ネットに不慣れで巨大な接種会場にも行けない高齢者ら。コロナ禍を体験した使命感が、地域に安心を注入している。 (ニューヨーク・杉藤貴浩、写真も)
 普段は地元の文化教室などに使われるニューヨーク市内の住宅街の公民館。3月下旬のある日、その一室が即席のワクチン接種会場に早変わりした。
 「はい、腕を出してください。すぐですよ」。ケルスカーさんは慣れたしぐさで注射器の針を刺すと、数秒で抜いた。「もう終わったの」。ぎゅっと閉じた目を開けて聞き返したのは、近所に住むマーガレット・ラリバティーさん(92)。高齢でがんを患ったこともあるため、接種が済んでほっとした表情を浮かべた。「早く外出して妹に会いに行きたかったの」

ケルスカーさんが出張接種をした公民館の受付。付近の住民が大半で待ち時間もほとんどない

 ケルスカーさんは他の多くの薬剤師と同様、州から供給されたワクチンを市内で営む薬局で接種している。それに加え、こうした地域の公民館などに自ら出向くのは、「ワクチン難民」に接種を広めたいと考えたからだ。
 「予約はネット。自宅から遠く、現場で何時間も待たされる。ラリバティーさんのような高齢者や障害者はそんなワクチン会場には行けない」とケルスカーさん。ネット以外に電話と用紙記入で予約できる仕組みを整えた。行政側にも確認をとり、3月初旬から数百人に接種している。
 脳裏には、1年前の街の姿がある。薬局の周囲はニューヨークでも有数の感染集中地域。「みんなが親しい人を失い、コロナ検査を受けたくても体制が追いつかない状況だった。ワクチンで同じことを繰り返してはいけない」

巨大ワクチン接種会場となった米ニューヨークのヤンキースタジアムで行列をつくる人々。待ち時間を敬遠する高齢者は多い

 出張会場に持ち込むワクチンは、自身の薬局で使い切れなかった分。米国では多くの人々がワクチンを待ちわびる半面、安全性への不信や慣れない場所で受ける抵抗感から接種を敬遠する人々も少なくない。
 このため、地域によっては行政からの割り当て分が余る問題も起きており、ケルスカーさんの活動は、そのギャップを埋める効果もある。実際、この日やってきたジョディ・ノランさん(50)は「娘がここでボランティアをしている。親近感と信頼感があったから接種を受けに来た」と話した。
 ワクチンを運ぶための冷凍庫や受付スタッフなどの人件費…。実は活動を続けるほど赤字は膨らんでいく。「でも、お金の問題ではない。町を元に戻すため、一滴の水のような存在だとしても役に立ちたい」とケルスカーさん。薬剤師仲間に呼び掛け、活動は少しずつ広がりはじめている。

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