土葬の村 高橋繁行著

2021年4月4日 07時00分

◆死は地域で共有されるもの
[評]澤宮優(ノンフィクション作家)

 今年も新型コロナウイルスの感染は止まらない。死亡者数が無機質な数字として報道されるたびに、死の扱いへの軽さを感じてしまう。
 そんなときに本書を読み、命の重みに改めて向き合うことができた。著者は現代では珍しい土葬を三十年かけて調査・取材を行い、死者を葬ることの本質に迫っている。
 二〇一七年に京都府山間部の南山城村で、九十歳を越えた男性が本人の希望で土葬された。棺桶(かんおけ)は縦長の直方体で、座った格好で埋葬される。墓地は地域の人々が穴を掘る。野辺の送りでは、死者の顔は自分の家が見えるように進行方向の反対側に向ける。そんな作法がある。
 弔いには地域性もある。死者の髪を寺の僧が剃(そ)って坊主頭(ぼうずあたま)にするところもある。棺を埋めて、そこに猟銃を撃つこともある。一度埋めた棺を後日掘り返し、故人の顔を再び拝む「お棺割り」という儀式もある。その奇習の必然性については、ぜひ本書で知ってほしい。
 なぜ火葬でなく、土葬にこだわるのか。奈良市田原地区の住職の言葉が印象深い。以前九十歳の女性が土葬されたが、彼女は七十年間をこの土地で生きた。一瞬で終わる火葬より、地域で手間をかけて故人を送ることが供養になるからだという。死者とともに生きた地域の愛情が伝わってくる。
 本書は田野で遺体を焼く「野焼き」や、鹿児島県の与論島の風葬も紹介する。そこから見えてくるのは、死は個人的なものではなく、地域で共有されるものでもある点だ。
近年家族葬など葬儀の簡略化が進み、私たちの生活から死が遠のき、畏れ、敬いの感情を失いつつある。それゆえに著者の一文が心に響く。
<死者とどう向き合えば故人への惜別の思いを取り戻せるのか、弔うとはどういうことなのかを考える一助になればと願う。>
 死を直視することは命のありかたを問う行為でもある。殺伐とした今の時代に本書は生と死について深い考察を与える役割を果たしている。
(講談社現代新書・1100円) 
1954年生まれ。ルポライター、高橋葬祭研究所主宰。著書『葬祭の日本史』など。

◆もう1冊

高橋繁行著『お葬式の言葉と風習 柳田國男『葬送習俗語彙』の絵解き事典』(創元社)

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