約束の地 大統領回顧録I 上・下 バラク・オバマ著

2021年4月4日 07時00分

◆米国の理念にこだわり
[評]渡部恒雄(笹川平和財団上席研究員)

 ハワイの中流家庭に生まれ、政治には何の縁もなかった青年が政治に目覚め、素晴らしい仲間と家族に支えられ米国史上初の黒人大統領に当選する。前半は痛快な冒険譚(たん)だ。タイムマシンを使い、本書を二〇〇八年より前のどの時代の米国人に読ませても「この“空想小説”は夢物語すぎる」と酷評されるはずだ。
 バラク・オバマが政治に踏み出した理由は本書を書いた動機でもある。アメリカはその理想とは裏腹に差別は社会に根付き、拙速に軍事力を行使する性癖により、常に苦しんでいる。しかしオバマは「アメリカの“理念”と“約束”に自分でも驚くほどにこだわった」。この国は「すべての人間は生まれながらにして平等」という独立宣言の一節が「約束された地」であるべきだと。
 リーマン・ショックという未曽有の経済危機が、経済に弱いライバルのマケイン候補の敗因となった。マケインは選挙中にもライバルのオバマへの支持者の差別的な態度をたしなめてブーイングを浴びるほどの高潔な人物だったが、ペイリン副大統領候補は、移民排斥的な不満を人々に注入するポピュリストだった。
 オバマが大統領となり、経済救済に七千八百億ドルを拠出するアメリカ復興・再投資法を、苦しい議会対策の末に通したが、リック・サンテリという保守派コメンテーターの「中途半端なポピュリズム」発言に煽(あお)られ「ティーパーティー」(茶会)運動が生まれた。
 オバマの宿願だった「オバマケア」という医療保険改革も、苦闘の末成立するが茶会運動の厳しい抵抗に遭う。ドナルド・トランプは、当時、オバマが米国生まれではないという根拠のない陰謀論による「バーセリズム」運動を展開していた。オバマは若干の不安を抱きながらも、9・11テロの首謀者のウサマ・ビン・ラディン追討に全力を挙げる。アメリカは不完全かもしれないが、それでも歴史上どの超大国よりも、規範を順守し自制をかけてきたと、オバマは信じているからだ。政治家が嫌いな人と政治家を志す人に読んでほしい。
(山田文ふみほか訳、集英社・各2200円)
1961年生まれ。2008年、米史上初のアフリカ系の大統領に選ばれ2期務めた。

◆もう1冊

カート・アンダーセン著『ファンタジーランド 狂気と幻想のアメリカ500年史』上・下(東洋経済新報社)。山田美明・山田文訳。

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