[ランチの神様] 名古屋市天白区 鈴木勝巳(67)

2021年4月4日 07時47分

◆わたしの絵本

イラスト・まここっと

◆300文字小説 川又千秋監修

[方言] 三重県松阪市・主婦・62歳 小山肇美

 散歩道に春が来た。
 気分がいいので、遠まわりをする。山あいの田畑が広がるこの場所は、田舎の中でも時間の流れがゆるやかだ。
 ここに引っ越して早くも十年が過ぎた。木々を渡るシジュウカラやヤマガラも声だけでわかるようになった。
 「ギューイ」と鳴いてトトトト…と木の幹をノックするのは、小さなキツツキのコゲラだ。
 「ホーホケキョキョ」
 そう! 奥まったこの谷のウグイスたちは教科書通りに鳴かない。うちの庭に来るウグイスは、ちゃんと「ホーホケキョ」と鳴くのに。
 鳥の子どもは、大人の鳥から口伝えでさえずりを覚えるのだろう。このささやかな谷が世界のすべてなのだ。
 「ホーホケキョキョ」
 笑ってはいけない。鳥にも方言がある。

<評> 春告げ鳥、花見鳥などとも呼ばれる季節の使者ウグイス。透き通った特徴的なさえずりは、誰にもおなじみと思いますが、耳を澄ましてみると、その地域ならではの変奏曲が聞こえてくることも。

[女将] 金沢市鈴見台・無職・73歳 能村孝 

 勤めていた頃、同僚とよく通った食堂がある。
 壁際に多彩な総菜が並び、中央のテーブルにはご飯と味噌(みそ)汁などが置かれていた。
 客はトレーに大きな皿をのせ、好みのものを皿に取り、席に着く。
 すると女将(おかみ)がやってきてトレーの上を見つめ、値段を告げる。
 慣れると私たちは値段を予想し、女将より安いと喜び、高いと落胆した。
 ある時、私たちは前日と同じものを選び、でも量を少しずつ減らしてみたが、女将は、減らした分に相応する安い値段を告げた。私たちはその眼力に驚嘆し、自分たちが試みた愚かで品のない行為を恥じた。
 退職後、行けていないが、コロナ禍で今はどうなっているだろうか。
 あの女将なら、きっと工夫して乗り切っていると思う。

<評> これぞ、まさしく達人技! 長年の経験で磨かれた名人芸と呼ぶべきおもてなし。提供されるお料理にも、きっと、この店ならではの手間を惜しまぬ深い味わいが、しっかり染みこんでいるはずです。


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