タワマン続々、不動産急騰、再開発バブルの裏で見捨てられる庶民

2021年4月5日 06時00分
<政権審判 4月7日 ソウル・釜山市長選挙㊤>
 与野党一騎打ちの構図となった韓国ソウル、釜山プサン両市長選挙(4月7日投開票)は、残り1年となった文在寅ムンジェイン政権を審判し、次期大統領選挙(来年3月)の前哨戦と位置づけられる。両市で争点の現場を追った。

ソウル市昌信地区で3月、傾斜地に密集する町工場や民家=相坂穣撮影

◆与党も野党も結局は再開発狙い

 20世紀初めからソウルの鉄道網の要所となってきた龍山コンサン駅。ソウル市長選で野党「国民の力」候補の呉世勲オセフン(60)は、周辺を再開発し「アジアのシリコンバレーを育てる」と訴える。
 文政権の発足後、ソウルのマンション相場は5割超高騰。住宅難で子育て世代などが不満を募らせる中、政府高官や土地住宅公社職員の土地投機疑惑が相次ぎ、市長選で不動産政策が争点化した。劣勢に立つ与党「共に民主党」候補の朴映宣パクヨンソン(61)の公約も「再開発で住宅を供給する」と、野党と目立った差はない。

3月27日、ソウル市の龍山駅前で、古い建物が撤去され、タワーマンションなどが建つ再開発地区に立つ李忠淵=相坂穣撮影

◆反対派籠城、火災、そして死者

 「過去の政治に戻るようで、悲しい」。龍山駅前に続々と完成するタワーマンションを李忠淵イチュンヨン(47)が見上げた。2000年代から一帯が再開発の対象地区となり、軒を連ねていた商店や民家の撤去が進められた。
 家族で居酒屋を経営していた李は09年1月、再開発に反対する住民ら30人と、雑居ビルに籠城した。未明、警察が強制排除に乗り出し、混乱の中で火災が発生。70歳だった父親ら住民5人と警官1人が死亡した。李は遺族でありながら、警官への公務執行妨害致死罪で4年間服役した。
 事件は「龍山惨事」と呼ばれ、住民の記憶に強く残る。当時の韓国は、大手建設会社出身の李明博イミョンパクが大統領に就任。行政や財閥が住民を一斉に移転させ、再開発を推進した。不動産所有者は、値上がりや新築マンションの優先購入権を得ることを期待した。

ソウル市の龍山駅前で2009年1月、再開発反対派の住民が立てこもったビルで発生した火災=韓国都市研究所・李元鎬氏提供

◆あの名作映画の通りに

 龍山でも、所有者の75%以上が同意して合法的に立ち退きが始まったが、実際の住民の7~8割は賃借人で、反対する権利がなかった。多くは引っ越し代ほどの補償金しか与えられずに移転させられた。跡地に建つ分譲マンションの相場も30億ウォン(2億9000万円)前後とされ、庶民の手が届く代物ではなかった。
 事件に関わった住民たちは賃貸で時計店や洋服店、ビリヤード場などを営んでいた。家も店も失い、警備員や家政婦など非正規労働に転じた人、昨年の米アカデミー賞作品賞に輝いた韓国映画「パラサイト 半地下の家族」で格差社会の象徴として描かれた半地下住宅に移った人もいる。
 事件を検証してきた民間シンクタンク・韓国都市研究所の李元鎬イウォンホ(44)は「韓国の賃貸制度は借り手の立場が弱すぎる。持てる人が富を増やす一方で、持たざる人は守られない」と話す。

◆不動産長者よりまじめに暮らす住民のために

 悲劇の後、ソウル市内では再開発を見直す地域も出た。アジア有数の東大門トンデムンの衣料市場を支える町工場が集まる鍾路チョンノ昌信チャンシン地区は00年代に再開発地区の指定を受けたが、13年に市内で初めて計画を中止。老朽化した建物や水道、ガス管などを少しずつ更新する方法で地域の再生を進める。

ソウル市鍾路区昌信で3月、町工場が集まる地区を歩く孫慶周=相坂穣撮影

 ソウル大大学院で都市計画を専攻し、生まれ育った昌信の町づくり組合常任理事を務める孫慶周ソンキョンジュ(42)は「不動産高騰の裏に、投機で楽に稼ぎたい人々の欲がある」と言う。「対立を招く政策でなく、まじめに暮らす住民を支える政策が必要だ」。ミシン作業に励む人々を見つめ、力強く語った。 (敬称略、ソウル・相坂穣)

関連キーワード

PR情報

国際の新着

記事一覧