そっと寄り添う一冊に がんサバイバーの女性たちが短歌集 「一人じゃない」と伝えたい

2021年4月5日 07時35分

黒い雲と白い雲との境目にグレーではない光が見える

 がんを体験した女性たちが、闘病中の思いを31文字に表した短歌集『黒い雲と白い雲との境目にグレーではない光が見える』(監修・岡野大嗣(だいじ)、左右社、1870円)を出版した。ありのままの言葉で紡いだ本書が、がんや他の病気と闘う人、その家族らの「不安にそっと寄り添う一冊になれば」と願っている。 (北爪三記)
 歌を寄せたのは、北海道から九州まで各地に暮らす十〜五十代のがんサバイバーの女性二十六人。短歌集の出版プロジェクト「あの日の風を記憶するわたしの31字」のメンバーだ。プロジェクト名について、立ち上げた尾崎ゆうこさん(38)=写真=は「がんを告知された時から孤独や悩みを抱えて過ごすけど、治療が終わると少しずつ日常に戻っていく。ただ、苦しかった思い出も今の自分を作っているので、形として残しましょう、という思いが込められています」と説く。
 活動のきっかけは、自らの経験だった。尾崎さんは一昨年の春、子宮頸(けい)がんと診断された。病気について理解を深めようと本を読みあさる中、生々しい闘病記に苦しさを覚えることや、専門的な医学書が頭に入ってこないこともあった。
 「もっと平易な言葉で書かれた、心に寄り添ってくれる本があれば」。そんな思いを強くしていた昨春、短歌と出合った。イラストレーターの安福望(やすふくのぞみ)さんが、現代歌人の歌をモチーフにイラストを描いた本『食器と食パンとペン』(キノブックス)。読んで「短歌って自由でいいんだ」と感じた。
 収録されていた短歌のうち、歌人岡野大嗣さんの作品にひかれ、指導を依頼。ほぼ初心者のメンバーは昨年六〜十月、コロナ禍ということもあって、オンラインで岡野さんからレッスンを受けた。それぞれの思いを込めた三百を超える歌が集まり、このうち九十五首を収めた。
・またがんと生きる私に十字架を差し込むごとく天窓の陽は
・幾度でも愛(め)でてあげよう手術痕わたしを生かす薄桃のすじ
・冬瓜(とうがん)がとろり澄みゆく瞬間を見逃さないこと生きてゆくこと
 各自の思い入れのある一首ずつ計二十六首は、イラストレーター西淑(にししゅく)さんがそれぞれ描いたイラストと共に掲載した。告知や闘病の当時を振り返る体験談「サバイバーストーリー」も盛り込んだ。
 病院のベッドでも手に取りやすいよう、装丁などにもこだわった。力を入れなくても開くことができる糸かがりのコデックス装を採用。四六判変形で百八ページと手頃なサイズで、目に優しい色使いにも気を配った。
 タイトルは、収録の一首から採っている。尾崎さんは言う。「特に同世代の女性サバイバーに手に取ってもらいたい。一人じゃないよ、と伝えたいんです。がんになって自分が嫌いになったとか、自信をなくしたという方も多いと思うんですけど、悪いことばかりじゃないよ、と。それがタイトルの『光が見える』なんです」

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