【独自】問われる政府の指導・監督 ニチイ学館、フィリピン人女性の契約打ち切り問題 

2021年4月6日 06時00分
 国家戦略特区で家事代行業に就くため「ニチイ学館」(東京)に採用され来日したフィリピン人女性が大量に契約更新されなかった問題は、外国人労働者の「使い捨て」ともいえる実態を浮き彫りにした。人権軽視と指摘される事態について、特区事業を推進した政府による監督・指導の在り方も問われる。(望月衣塑子)

◆増える試験頻度

 「スタッフ評価制度による契約不更新(雇い止め)の実施」「毎月実施の各種研修を基に、年間合格単位以下の者を雇い止める」
 2020年8月に同社が作成したとされる内部文書には、家事代行事業を黒字化するための施策とともに「雇い止め」との文言も並ぶ。
 フィリピン人女性たちの評価制度や研修について、同社は本紙の取材に「当社独自の日本語試験を年4回、行っていた。その他の要素も含め改善が見られない人は契約を更新しなかったケースもある」と答えていた。

「日本は大好き。でもニチイではやりがいを持てなかった」と語るフィリピン人女性=東京都内で

 同社関係者によると、20年1月ごろから、契約更新しない根拠となる試験の頻度を増やすようになった。日本語、掃除技術や知識、社内コンプライアンス、礼儀作法など多岐に及ぶ試験をペーパーや実技で繰り返したという。

◆合格点未満は契約更新せず

 8月以降は総合点の悪い女性に追試を受けさせ、合格点に満たないと契約更新しなかった。関係者は「大量に女性を受け入れたが多くは仕事がなく、この1年は研修もせずに問題集を渡し自習させ、試験を受けさせ続けた。教育らしい教育はしていない」と憤る。女性たちも「繰り返し試験され、結果が悪い人は、事務所に名前や番号が貼り出され雇い止めになっていた」と怒りを口にする。
 関係者や資料などによると、同社は日本での家事代行業の需要増を見込み、18年2月に特区での事業に参画。19年3月末で632人、20年3月末で695人まで受け入れを拡大した。

「毎月試験が繰り返され、結果が悪い人は名前を事務所に貼り出された」と語るフィリピン人女性=東京都内で

 しかし予想ほど家事代行スタッフの需要は伸びず、19年9月には事業を推進した創業者の寺田明彦前社長が死去した。家事代行事業を含めたヘルスケア部門は19年度、21億円の赤字を出した。20年8月に米系買収ファンドのMBO(経営陣買収)が行われる前、ニチイが出した資料には「今後も赤字事業の原因特定を進め、収益化に向けた抜本的な改革を断行していく」と書かれていた。

◆募る不信感

 フィリピンの統計庁が発表した同国の失業率は8・7%(21年1月)と日本より悪く、多くの女性が日本で働き続けることを希望する。「日本は大好き。でもハウスキーパーの国家資格を取ってまで来たのに仕事が全くできず、やりがいも見いだせなかった」。退社に追い込まれた女性たちは、ニチイへの不信感を募らせる。
 安倍前政権は19年度からの5年間で最大34万人の外国人労働者を迎え入れるとし、菅政権もこれを踏襲した。コロナ禍でも清掃業や一部ホテルなどでは人手不足が生じている。家事代行での需要がないならば、国も早急に実態を把握し、需要の多い特定技能への移行を模索するなど支援策はあったのではないか。

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