MLBは球宴の開催地を変更…マイノリティーを狙った投票制限法に反発広がる 共和党主導の州では立法化拡大

2021年4月6日 13時46分
 米南部ジョージア州で成立し、黒人らマイノリティー(人種的少数派)の投票機会を奪うとして批判が強い投票制限法に対して、スポーツ界や経済界から反発が広がっている。一方、共和党が主導する州議会では、同州にならえとばかりに立法化の動きが拡大している。(ワシントン・岩田仲弘)

◆MLBは球宴開催地を州都アトランタから変更

 成立した制限法は「選挙の不正を防ぐ」ことを名目に①投票用紙の投函箱の数を減らす②郵便投票の用紙を請求する際、貧困層が入手しにくい運転免許証など顔写真付きの公的身分証(ID)の提示を義務付ける③投票所で並んでいる有権者に飲食物の提供を禁じる―ことなどを明記。民主党や人権団体は、同党支持が多い黒人ら貧困層を狙い打ちした抑圧行為と非難する。

米大リーグ機構(MLB)が会場の変更を決めるまで、今年のオールスター戦が開かれる予定だったアトランタ・ブレーブスの本拠地=2018年10月撮影、AP

 制限法成立に伴い、米大リーグ機構(MLB)は2日、7月13日のオールスター戦(球宴)を州都アトランタから変更すると発表した。ロブ・マンフレッド・コミッショナーは声明で「MLBは米国民すべての投票の権利を支持し、投票制限に反対する」と強調。MLBの黒人選手・元選手ら150人以上で構成し、黒人社会の地位向上を目指す団体「The Players alliance」もMLBの方針を支持し、制限法を「黒人社会の投票権を奪うだけでなく、他の州で同様の法律の成立に道を開く」と強い懸念を示した。
 制限法を「これがアメリカか。うんざりだ」と強く非難したバイデン大統領もMLBの対応を支持している。アトランタは、人種差別と闘いながら米大リーグ歴代2位の通算755本塁打を放ち、今年1月に亡くなった黒人の名選手ハンク・アーロンさんが長くプレーしたブレーブスの本拠地。オバマ元大統領もツイッターでMLBの対応を評価し「常に範を示したハンク・アーロンに敬意を表する以外に取るべき道はない」と訴えた。

◆経営者らも抗議表明 対応が後手に回った企業は…

3月下旬、米南部ジョージア州アトランタで、投票を制限する州法に反対する姿勢が足りないとして、コカ・コーラ商品のボイコットを呼び掛ける市民ら=AP

 経済界の反応も厳しい。制限法成立直後の3月末には、クレジットカード米最大手、アメリカン・エキスプレス(アメックス)のケネス・チェノルト元最高経営責任者(CEO)や医薬品大手メルクのケネス・フレージャー会長兼CEOら黒人の企業経営者ら72人が米紙ニューヨーク・タイムズに制限法に抗議する公開書簡を発表した。
 フレージャー氏は2017年当時、大手製造業の経営トップで構成するトランプ大統領の助言組織のメンバーだったが、南部バージニア州で白人至上主義者らと反対派が衝突した事件で、トランプ氏が「責任は双方にある」と発言したことに真っ先に抗議し辞任。その後、助言組織の解体につながったことでも有名だ。
 「米国の民主主義の価値に対する脅威を黙って見過ごすわけにはいかない」。公開書簡は危機感あらわに他の企業に対して連帯を呼び掛けた。今月2日には米配車大手ウーバー・テクノロジーズやツイッター社など100以上の企業幹部らが呼応する形で、新たな公開書簡を発表。「(有権者を)投票箱から遠ざけ、投票所に長い行列を生み出すような障害を政治家が無理強いするようなら、私たちの選挙は改善しない」と懸念を訴えた。
 対応が後手に回ったのが、アトランタに本社を置く飲料大手コカ・コーラと航空業界大手デルタだ。いずれも制限法が成立した際、共和党の知事と議会に配慮するかのように批判を避けたために非難が続出。このため「法律は受け入れられない。(2020年の大統領選などで)不正投票があったといううそに基づいている」(デルタCEO)「われわれは制限法に失望していることをはっきりさせておきたい」(コカ・コーラCEO)と、それぞれ反対姿勢を明確にするよう迫られた。

◆知事はデルタとMLBの対応を非難

3日、米南部ジョージア州で、黒人らの投票機会を制限すると批判される州法の成立に反対し、オールスター戦の会場を州都アトランタから変更した米大リーグ機構(MLB)の判断を巡り、発言するケンプ知事=AP

 一方、ジョージア州のブライアン・ケンプ知事は「デルタには立法過程で何度も法案について直接説明したが、何の懸念も示さなかった」とその「転向ぶり」を批判。球宴の開催を撤回したMLBに対しても「リベラルな活動家の恐怖とうそに屈している」と非難した。
 特に球宴には地元の経済効果を期待していただけに「ジョージア州民、米国民は、この決定(の影響)がビジネスに襲いかかることを知るべきだ」とけん制した。
 昨年の大統領選で民主党の副大統領候補にも名前が挙がったアトランタのケイシャ・L・ボトムズ市長もツイッターで、MLBの対応に理解を示しつつも「(球宴の)ボイコットでアトランタ都市圏は経済的な打撃を受け、それは州内に波及する」と認めた。

◆全米各地で急拡大する法案提出…3州ですでに成立

 ニューヨーク大ブレナン・センターによると、3月24日時点で、投票制限法案は全米50州のうち47州で361本以上の法案が提出されている。2月19日時点では43州で253法案。1カ月余りで4割以上増えた。
 すでにジョージアのほかに中西部アイオワ、南部アーカンソー、西部ユタの3州で類似の制限法が成立。南部テキサス州では49法案も審議されている。
 これらの州は知事も州議会多数派も共和党が占める。テキサス州のグレッグ・アボット知事は5日、MLBのアトランタでの球宴ボイコットを「アメリカの娯楽が、党派政治の影響を受けるだけでなく、政治的な虚構を存続させるのは恥ずべきことだ」と批判。この日、地元レンジャーズの開幕戦始球式に招待されていたものの抗議の意志を表明するため断った。

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