コロナで会社辞め、放火未遂…逮捕9回、57歳男性に驚きの執行猶予判決 「社会で更生、最後の機会」

2021年4月7日 06時00分

3月、執行猶予付きの有罪判決を受けて勾留先の東京拘置所から釈放された男性=東京都葛飾区で

<法廷のしずく

 裁判長「被告人を懲役3年、執行猶予5年に処する。被告人は自身の障害と向き合い、更生すると誓っている。社会内で更生する最後の機会を与えることにしました」
 東京都江戸川区の自宅アパートを放火しようとしたとして、非現住建造物等放火未遂罪に問われた男性(57)は3月、東京地裁で執行猶予付きの判決を受けると、驚いたように顔を上げた。逮捕は9回目。刑務所には6回入った。また実刑だと覚悟していた。
 男性は今回初めて受けた精神鑑定で、適応障害だったことが判明。厚生労働省によると、ストレスが原因で情緒不安定になり、物を壊すなどしてしまうこともある障害だ。裁判長は更生の可能性を信じ、刑の執行を猶予した。
 勾留先の東京拘置所から釈放された男性は、記者に「多くの人に迷惑をかけてしまい、本当に申し訳ない。二度と刑務所に戻らないようにしたい」と話した。

◆動機の大半「ストレスで」

 両親の顔は覚えていない。青森県で生まれて間もなく養子に出され、3歳で児童養護施設に預けられた。
 20歳ごろ上京。ビデオ店のアルバイトをしていた24歳のとき、店長と口論後にイライラして街を歩き回っていた際、エンジンがかかったままの誰も乗っていない車を見つけた。「疲れたから乗ってやろう」
 初めて逮捕され、その後も自転車を盗んだり、職場の寮で紙に火を付けたり。動機の大半は「ストレスでいらついたから」だった。
 2月の被告人質問では、適応障害に話題が及んだ。
 弁護人「障害があると知って、どう思いましたか」
 被告「確かにそうかなと。ストレスをため込んでしまうと、気持ちが行動に表れてしまうんです」
 6回目の刑期を終えた2013年、江戸川区でアパートを借り、警備会社の日雇い仕事を始めた。主な業務は工事現場での歩行者の誘導。あまりストレスなく過ごせていたが、20年春、仕事が激減した。
 弁護人「新型コロナウイルスの感染拡大が背景にあるんですよね」
 被告「会社は若い人には仕事を振っていた。『なぜ俺には』とイライラし、会社を辞めてしまいました」
 20年5月から別の警備会社を探したが、なかなか見つからない。ようやく見つかりかけた7月、研修に行かなければならない朝、寝坊してしまった。
 「情けない。全部燃やしてしまいたい」。毛布に火を付け部屋を飛び出した。近隣住民が煙に気づき、毛布が焼けただけで済んだ。
 今月、改めて男性を取材した。裁判では精神障害者向けのグループホームに入ることになっていたが、施設側と行き違いがあり、白紙に。自ら精神科に通い、ストレスをためない治療をしているという。「コロナでなかなか仕事が見つからず、正直つらい。でも必ず更生しますよ」と誓った。(山下葉月)
 なぜ卑劣な犯罪に巻き込まれなければならなかったのか。なぜ犯行に及んでしまったのか。法廷で交錯する悲しみや怒り、悔恨…。人々のさまざまな思いを随時伝えていきます。

◆再犯者の割合増加傾向、19年は48.8%、


 一般刑法犯に占める再犯者の割合は増加傾向にあり、2020年版犯罪白書によると、19年は48.8%に上った。出所から2年以内に刑務所に戻ってしまう人は、罪名別では窃盗が最も多く、全体の2割強を占める。
 法務省は厚生労働省と連携し、身寄りのない出所者を福祉サービスや医療機関につなぐ取り組みを進めている。19年度につないだ775人のうち、約4割の317人が精神障害者だった。しかし、行政と福祉施設の連携が十分でなく、どこにもつないでもらうことができない人もまだ多い。

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