<社説>安保区域を規制 私権侵害を危惧する

2021年4月7日 07時13分
 国境の離島や自衛隊・米軍施設周辺などの土地利用を規制する法案を政府が国会提出した。妨害工作を防ぐ安全保障上の目的というが、私権を侵害し、正当な経済活動も制限しかねない危うさがある。
 法案は、国境にある離島のほか自衛隊・米軍施設の周囲一キロ以内を「注視区域」に指定し、所有者情報や利用実態の調査を可能にする内容だ。電波妨害、偵察など安全保障上の機能を阻害する行為があれば土地利用の中止を命じ、応じなければ刑事罰を科す。
 司令部などの周辺や防衛上特に重要な離島は「特別注視区域」とし、一定面積以上の土地売買に届け出を求める。
 政府の有識者会議が、外国資本による広大な土地取得を懸念して法整備を求めていた。
 テロ組織などが基地の隣接地に陣取り、妨害工作をするのは看過できない。安全保障上の意義は理解できる。だが、法律の具体的な運用方針のほとんどは成立後に政府が閣議決定するという。国会の関与も必要としない中で、規制が無制限に広がる懸念が拭えない。
 与党協議で公明党は、東京都心の防衛省周辺の土地取引が規制された場合、経済活動に甚大な支障が出ることなどを例に挙げて慎重姿勢を示した。
 その結果、運用に当たっては個人情報保護に配慮して措置を必要最小限度にとどめる規定を法案に盛り込み、特別注視区域の指定では、原則的に市街地などを除くことで与党は合意した。しかし、何が必要最小限度なのか、市街地の線引きなどあいまいな点が多い。
 何より、施設の機能を阻害する行為が何を指すのかが判然としない。指定区域の住民が、騒音や環境汚染などの基地被害を厳しく追及したり、基地の監視テント設置を望む市民団体に土地を提供したりする行為を阻むため、法律が利用される危惧が残る。
 米軍や自衛隊基地が狭い県土に集中する沖縄では特に影響が大きい。区域指定に際して、米軍の意向が優先されることはないのだろうか。
 基地に隣接する街やリゾート地が指定されれば、外国資本による開発が阻害され、地価下落や地域経済の停滞を招きかねない。県民の間には、基地反対運動の分断を心配する声もある。
 立憲民主、共産両党などは法案に反対している。審議では、恣意(しい)的運用の可能性について徹底的に検証し、さらなる修正や廃案も視野に入れ議論を尽くすべきだ。

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