明治生まれの女性から一通の手紙が届いたそうだ。その内容に心…

2021年4月7日 07時15分
 明治生まれの女性から一通の手紙が届いたそうだ。その内容に心を揺さぶられた。貧しい家に生まれ、米一俵と交換に奉公に出された。その後もしたくない仕事をさせられ、なんとか、その生活から逃げ出し、ミシンを習うことで身を立てた。苦労の半生がつづられていた▼手紙をもらった脚本家はこれをヒントにドラマを書きたいとテレビ局にかけ合ったが、「暗い、地味」と断られた。脚本家はあきらめきれず、三年後にもう一度、提案し、ようやく日の目を見たという▼ドラマの名は世界中にファンがいる「おしん」である。「おしん」などの脚本家、橋田寿賀子さんが亡くなった。九十五歳。あきらめなかった橋田さんの「辛抱のしん」であのドラマは生まれている▼「となりの芝生」「渡る世間は鬼ばかり」。約六十年にわたって、その時代に似合った作品で世の中をたのしませ、問題を投げかけた。「おしん」でいえば、描いていたのは平和の尊さであり、行き過ぎた経済成長への警鐘である▼ホームドラマに持ち味があった。家族の普通のやりとりを書きつつ、時代や人の考え方の変化をも大きく描く。われわれが引き込まれた橋田さんの魔術だろう▼単身世帯は既に三割を超えている。思えば、家族全員が一台のテレビの前に集まることも減った。にぎやかなホームドラマも描きにくい時代に、その人は筆をおいた。

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